研究課題
放射線被ばくによるがんリスクの遺伝的個人差はよくわかっていない。BRCA遺伝子変異は、保持者が比較的多く、がんリスクへの影響が大きく、放射線が作るDNA損傷の修復にも関係する。BRCA1変異のラットモデルにおける放射線がんリスクの機序を解明して予防法の基盤とするため、本年度は以下の研究を行った。遺伝子変異蓄積機序の解明のため、本ラットにおいてヘテロ欠損による発現量低下の効果(ハプロ不全)によりDNA損傷修復能が低下する可能性を検討した。本ラット及び野生型ラットの乳腺組織でDNA二重鎖切断マーカーを評価したところ、放射線照射後24時間までの修復速度に大きな違いはなかった。また、Brca1ハプロ不全により変異蓄積速度が増加する可能性を検討するため、本ラットの乳がんの凍結検体から腫瘍細胞を単離し、ゲノムDNAのエクソームを解析する実験を進めた。また、ウェスタンブロッティング及び組織切片においてラットBrca1を認識する抗体を見つけることができた。実験に用いるリードスルー化合物について検討し、すでに腫瘍抑制効果が報告されている抗生物質と、非抗生物質PTC124を選定した。遺伝子変異蓄積以外の機序の解明のため、Brca1ハプロ不全が乳腺の遺伝子発現に及ぼす影響を網羅的に解析した。様々な年齢における本ラット及び野生型ラットの正常乳腺組織のトランスクリプトームデータを昨年度に続いて追加収集し、これらの年齢に共通して両ラット間で異なる遺伝子発現の特徴を探索した。その結果、遺伝子セットエンリッチメント解析によって、Brca1ヘテロ欠損ラットの正常な乳腺組織においていくつかの機能を持つ遺伝子群の発現変動を見いだした。Brca1ハプロ不全と乳腺上皮細胞を構成する各細胞の割合の関係を調べるため、本ラット及び野生型ラットの正常乳腺組織において各細胞のマーカーを免疫染色により解析する実験に着手した。
2: おおむね順調に進展している
R5年度計画であった、DNA二重鎖切断修復速度解析、Brca1タンパク質の解析、乳がんエクソーム解析、リードスルー薬剤の検討を順調に進めたため。また、正常組織のトランスクリプトームデータを解析して、Brca1ハプロ不全に関連する経路を特定することに成功し、乳腺上皮細胞を構成する各細胞の割合の解析にも着手したため。
概ね順調に進んでいることから、今年度得られた結果に基づいて、遺伝子変異蓄積機序の解明及びトランスクリプトームレベルの機序の解明をゲノミクス及び分子マーカーの解析によって進める。
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すべて 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)