研究課題/領域番号 |
21H03613
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
亀田 貴之 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (50398426)
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研究分担者 |
高野 裕久 京都大学, 地球環境学堂, 研究員 (60281698)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 黄砂 / 花粉 / チロシン / 3-ニトロチロシン / 窒素酸化物 |
研究実績の概要 |
本年度も昨年度に引き続き,アレルギー疾患増悪作用をもたらす花粉由来のタンパク質を構成するアミノ酸であるTyrosine (Ty) のニトロ化体の黄砂表面生成反応について,模擬大気実験系を用いた実験により検証した.昨年度までは,黄砂モデル粒子(以下黄砂)上のNO2との反応によるTyの減衰と3-Nitrotyrosine (3-NTy) の生成を経時的に追跡し,黄砂に含まれる粘土鉱物がTyのニトロ化反応促進に寄与していること, NO2濃度の増加とともに反応速度定数の値は頭打ちとなり,黄砂表面におけるTyとNO2の反応は,ラングミュア-ヒンシェルウッド(Langmuir-Hinshelwood)型の機構(すなわち表面吸着同士の反応)をもとに説明することができることを明らかにした.また,オゾン共存下でのTy減衰速度はオゾン非共存下に比べて高い値を示し,その一方で,3-NTyの収率はオゾン非共存下の方が高く,反応性の高いオゾンがNO2と共存したために,生成した中間体であるTyrosyl radicalとオゾンとの反応が優先的に進行したことを明らかとした.本年度は更に,実大気中における3-NTy濃度と黄砂・花粉濃度との関連を明らかにするために,花粉マーカー物質の同定・定量法確立を試みた。大気中のグルコース,スクロース,フルクトース,アラビノースなどの糖類濃度は,大気中の花粉飛散量と正の相関があることが報告されている。そこで,大気粒子中のこれら糖類の濃度を分析することで大気中花粉飛散量の推定を行うこととした。分析には蛍光検出高速液体クロマトグラフィー(HPLC-FLD)法を用いた。糖類はそのままでは蛍光検出されないが,糖類にフェニルヒドラジンを反応させることによって蛍光誘導体化を行い検出した。併せて,実大気中の3-NTy観測に向け,HPLC-電気化学検出器の適用についても検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も昨年度に引き続き,黄砂表面を反応場とする花粉アレルゲン変質の可能性について室内実験による評価を試みた.すなわち,黄砂粒子および黄砂を構成する鉱物の表面上におけるTyのニトロ化反応実験を行い,黄砂粒子上におけるTyのニトロ化反応促進に寄与する要因について検討した.また,実大気中の3-NTy濃度と黄砂・花粉濃度との関連を明らかにするために,花粉マーカー物質の同定・定量法について検討した.併せて,実大気中の3-NTy観測に向け,HPLC-電気化学検出器の適用についても検証を進めている。このように,課題開始当初に設けた計画に基づき研究を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度も昨年度に引き続き主に黄砂のモデル粒子を用い,NO2によるTyrosineのニトロ化を室内実験により追跡し,これまでオゾン非共存下では進行しないと考えられてきたTyのニトロ化が,黄砂粒子上においてはオゾン非共存下においても極めて容易に進行することを明らかにすることができた.実環境中における3-NTy濃度は本実験系における濃度よりもずっと低く,適切な測定法の検討が必要である.HPLC-電気化学検出器は3-NTyの分析に極めて有用であることが分かったため,今後は本法を活用して,実大気観測による黄砂上チロシンニトロ化の検証と,生体影響評価を試みるとともに,実験系を用いた反応実験も引き続き進めていく予定である.
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