研究課題/領域番号 |
21H03620
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 祥広 宮崎大学, 工学部, 教授 (90264366)
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研究分担者 |
小椋 義俊 久留米大学, 医学部, 教授 (40363585)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 薬剤耐性病原大腸菌 / 病原遺伝子 / 河川水 / 多剤耐性 |
研究実績の概要 |
本研究では,河川水中にごく低濃度で存在するSTECについて,凝集・泡沫濃縮法により河川水を濃縮し,選択培地へ泡沫濃縮水を直接塗布することで,STECの高効率に回収する手法の開発を検討した。凝集・泡沫濃縮処理について,鉄塩凝集剤の最適条件ならびに処理水のpHの最適条件を調べた。その結果,鉄塩凝集剤を20 mg-Fe/L添加し,処理水のpHが7付近になるような条件の下で凝集・泡沫処理を行うことでによって,河川水中の活性大腸菌を96.7%の超高濃度で回収することが可能となった。 実河川への適用の試みとして,3つの河川の上流から下流を調査対象とし,STECの包括的な分布調査を行った。凝集・泡沫濃縮法と選択培地を組み合わせることで,河川水中のSTECを選択培地上に藤色コロニーとして検出・単離できた。また,得られたコロニーをDNA抽出し,Multiplex PCR法を用いて3種類の病原遺伝子を検査した結果,大淀川の上流ならびに中流,加江田川の中流から病原遺伝子を保有するSTEC陽性大腸菌株が検出された。さらに,検出された病原遺伝子を保有するSTEC陽性大腸菌に対し,全10種類の抗菌薬を用いた薬剤感受性試験(MIC試験)を行った。MIC試験を行った全10株のうち,90%(9/10株)が,少なくとも1つの抗菌薬に対し中度耐性以上を示した。3系統以上の抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌株や,毒素の産生に関するstx2遺伝子を保有しながら,ヒトの治療に使用されるテトラサイクリンに耐性を示す株も確認された。河川水中のSTECが薬剤耐性を獲得しており,人々の生活に悪影響をもたらす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の初年度において,河川水から大腸菌を活性状態のままで超効率的に濃縮できる方法を確立した。そして,濃縮した大腸菌から病原大腸菌(STEC)のスクリーニングと遺伝子検出を組み合わせて,実河川において,本手法の適用を検討し,適用できることを実証した。この方法は,国内外において新規の細菌回収法である。まだ,調査は初段階であるが,市民が利用する河川から病原遺伝子を保有し,かつ薬剤耐性も有する大腸菌が検出された。この情報・知見も公衆衛生の向上の観点から極めて貴重である。
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今後の研究の推進方策 |
1.実サンプルによる病原大腸菌同定法の確立(ほぼ達成,論文作成・公表んも予定):河川水,畜産排水,および流入下水を対象として,本研究で開発した泡沫濃縮,病原大腸菌の単離・同定,検出・定量の各プロセスを検討し,本法の妥当性を実証する。病原大腸菌を同定するため,単離株について,PCR法による特定の病原遺伝子を検出する。また,発生源の異なる病原大腸菌について全ゲノム履歴分析を試行する。 2.河川流域全体における薬剤耐性病原大腸菌の分布拡散の実態把握:土地利用と河川規模の異なる河川流域において最上流域から下流,河口に至る流域の調査地点を選定し,定期的にサンプリングを実施する。サンプルは,開発した泡沫濃縮法を用いて,病原大腸菌を計数(病原大腸菌数/大腸菌数)し,単離する。単離した病原大腸菌株は,日本化学医療学会の定めた最小発育阻止濃度試験によって薬剤耐性を評価する。 3.薬剤耐性病原大腸菌の全ゲノム履歴分析:単離した薬剤耐性病原大腸菌について,次世代シーケンサーによる全ゲノム解析を行う。系統群,宿主痕跡の遺伝子情報,プラスミドと染色体のDNA上の薬剤耐性遺伝子の伝播位置等から各単離株の全ゲノム履歴分析を行う。その分析結果に基づいて,調査河川流域における汚染源を推定する。また,病原大腸菌の薬剤耐性遺伝子の獲得状況から薬剤耐性の発現機構を解明する。
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