研究課題
当研究グループでは、地球上で芳香族を最も多く含むリグニンに、重金属イオンを担持し熱処理することによって、優れた導電性を有するグラフェンを得ることに成功した。本研究では 1)リグニンへの金属担持量と熱処理条件を制御することで、高導電性を有する単層グラフェンを安定に供給できる生成経路を創出する。さらに、生成したグラフェンの実装化に向け、2)樹脂とのブレンド技術を確立し高導電性の絶縁性ポリマーを提示すると共に、3)熱処理時の副生成物(H2、CO2等)も合成ガスに変換することで、リグニンの完全な再資源化を図る。本研究課題を克服することで、リグニンを100%使い切る再資源化技術を提案することができ、将来、持続的な低炭素社会に資する木質バイオマスのブレークスルーテクノロジーに貢献する。本研究の2年目では、昨年度計画されていたリグニンの種類を変えて、本法によるグラフェン生成の可能性を調べた。その結果、可溶性のアルカリリグニン、難溶性のクラフトリグニン、天然から抽出された硫黄含有リグニン、並びに工業的に排出された黒液等は、金属イオンを担持しアルカリで高分散させると、炭素源(リグニン中の炭素)の30%~50%が多層のグラフェンに変換されることがわかった。この成果を基にグラフェンの製造方法として特許出願を行った(特願2023-039760)。また、コアシェル炭素担体を触媒担体として利用することで金属触媒の触媒活性の最大化が可能であることが昨年度確認された。この結果に基づて,触媒反応条件を大気圧から高圧に変更し,CO2をメタノールやエタノールというより有用な有機分子へ変換する触媒の開発を実施した。
2: おおむね順調に進展している
2022年度の研究により、本法の工程は、リグニンの物性に関係よらずグラフェンの生成につなげることができることを明らかにすることができた。これは特筆すべき成果であり、本研究の目的としていた汎用的なリグニンの再資源化技術につながるものであった。、グラフェンが生成された金属粒子の大きさは、数~数十nmレベルと微小であることから、リグニンに金属イオンの両方が試料調製を行う段階で、高分散状態を維持することが重要であることも明らかとなった。これを基にグラフェンの製造方法として特許出願を行った(特願2023-039760)。リグニンから合成したグラフェン化合物を添加剤として、メチルメタクリラート類のラジカル重合挙動を検討した。その結果、添加剤無しに比べ、添加した方が得られるポリマーの分子量分布が広く柔軟性や溶解性に優れるポリマーの合成が可能であることが明らかとなった。グラフェン合成の副生成物であるCO2とH2をメタン等への有用物質に高効率で変換する新規触媒を探索した.アルミナ,セリア,ジルコニアをコアとするコアシェル炭素担体を調製した.コアシェル炭素担体にRh触媒を担持し,そのCO2のメタネーション活性を評価した結果,セリアをコアとするコアシェル炭素が極めて高い活性を示すことを明らかにした.以上、本研究の2年目の計画である「各基礎研究の最適化」については、いくつかの研究課題は残されているのものの実施計画に従って進められていることから、「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
【リグニン由来グラフェンの合成法の完成】金属イオンを担持してリグニンを熱処理してグラフェンを得るためには、金属イオンの高分散化が鍵となるが、材料への変換を考えた場合、その金属を除去する必要がある。そのため、金属を酸処理によって除去した際に生じるグラフェンの結晶の欠損状態や導電性の変化等を観察し、生成されたグラフェンの工業的利用価値を評価する。また、これまでの成果をまとめ国際学術誌や学会で発表し、外部へ積極的に発信する。【高分散グラフェン-樹脂の物性評価】前年度のグラフェン-ポリマーのブレンドでの機械的強度試験、ブレンドポリマーの導電性を明らかにし、工業製品としての有用性を明確化していく。また、この成果を国際学術誌や学会で発表し、外部へ積極的に発信する。【C1化学プロセスによる有機物質の合成】金属担持リグニンの熱処理時に生じるガス成分をオンタイムで測定するため、フロー型熱重量分析-ガスクロマトグラフ装置を開発し、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の定量を行う。また、それらのガス成分と分担者が開発した有機触媒を用い、メタン、メタノール、酢酸への変換を試みる。この研究の成果はバイオマスからのC1化学に展開するだけでなく、カーボンニュートラルに資するキーテクノロジーとして期待できる。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 12件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
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