研究課題/領域番号 |
21H03742
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
塚田 和明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主席 (30343916)
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研究分担者 |
伊藤 正俊 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (30400435)
橋本 和幸 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 専門業務員 (80414530)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 医療用RI合成 / 合成量評価 / 中性子発生量評価 / 副生成物評価 / 加速器中性子 / 標的物質検討 / 最適照射条件検討 |
研究実績の概要 |
原子力機構タンデム加速器を利用し、将来の医療用RIとして期待されているCu-64,67及びSc-47について、15~30MeV重陽子照射の励起関数測定など基礎データの収集を行った。特に副生成物評価では、患者の体内残留の影響が危惧される半減期が数か月の核種の生成量評価を行う事ができた。Cu-64,67においては副生成物の影響は大きくなく、本生成手法が有効であることが示されたが、Sc-47においては半減期84日のSc-46の生成の影響が大きく、高価な濃縮同位体試料の利用が不可欠であり、かつ重陽子の照射エネルギーを低くしてSc-46の生成が少ない条件を選定する必要があることがわかった。本手法でのSc-47生成ではコストの問題が生じる可能性があり、引き続き最適条件の検討が必要である。 また、東北大CYRIC施設においては大量合成による標的実験及びマウス実験を視野に、電流量100μA程度での合成を目指している。そこで、このような大電流の重陽子を効果的に利用出来るよう、また、研究において実験者の被ばくを低減し、かつ効率よい照射実験を行うために、試料を遠隔で交換出来る自動試料交換装置の導入を行った。実験装置は気送管方式を利用し、照射位置からコンクリート遮蔽外まで、自動搬送が可能であり、今後の生成実験に利用していく予定である。 更に、加速器による中性子発生についても基礎データを得るため、標的の材質をグラファイトから、中性子発生量が多くなると期待されるBe金属にし比較実験を行った。Beは同じ重陽子照射のグラファイト標的の1.8倍の中性子生成量を示したが、重陽子注入によるBe金属のブラスタリング効果から、耐用時間に制約があることがわかった。大電流照射ではグラファイト標的の利用あるいはBeとグラファイトの複合標的利用が必要である。引き続き、最適な標的物質についての検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成研究においては、将来の医療用RIとして期待されているCu-64,67及びSc-47について、15~30MeV重陽子照射の際の生成に関わる励起関数測定など基礎データの収集を順調に行う事が出来た。しかし、Sc-47の生成においては、患者の体内残留の影響が危惧される半減期84日のSc-46の生成の影響が大きく、高価な濃縮同位体試料の利用や照射の重陽子エネルギーを低くしてSc-46の生成が少ない条件を選定することで、Sc-47そのものの合成量が減るなど、商業利用におけるコスト問題が生じる可能性があり、引き続き最適条件の検討が必要である。 また、東北大CYRIC施設においては、大電流の重陽子を効果的に利用出来る自動試料交換装置付の照射装置の導入に成功し、今後の生成実験では、自動化による実験者の被ばく低減による、実験の効果的実施など、スムーズな研究遂行が可能になると期待している。 加速器による中性子発生についての基礎データ蓄積も順調に進み、中性子発生量が多くなると期待されるBe金属利用に関する情報を得ることが出来た。しかし、Be金属のブラスタリング効果など、必ずしもBe金属利用が効果的でない面も確認され、大電流照射ではグラファイト標的の利用か、あるいはBeとグラファイトの複合標的の利用について、更なる検討が必要であることがわかった。引き続き、最適な標的物質について、PHITSコードによるシミュレーション計算なども考慮しての検討を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、先行研究で対象としてきたMo-99及びY-90などの医療用RIについても、15~30MeV陽子及び重陽子照射の際の生成に関わる励起関数測定や患者の体内残留の影響が危惧される半減期が数か月の副生成物の生成量評価を中心に実施する。また、上記の医療用RIに加えて、核医学利用が期待されているが実際に必要量を合成できていないRIを中心に合成実験を開始する。この時、15~30MeVの重陽子・陽子照射はタンデム加速器を、30MeV以上の重陽子・陽子照射については東北大CYRIC施設を利用する。 東北大CYRIC施設においては上記の新規医療用RIに関する生成量評価実験に加え、分離精製、標識化などの研究を実施出来るよう実験装置の更なる改良を進める。特に、加速器施設は令和4年度中に10倍のビーム利用が出来るよう改良を進めているため、大電流照射に備えて標的部の熱除去のため、回転式水冷却ターゲットなどの検討を行う。回転式水冷却ターゲットでは、標的をグラファイトまたはBe金属との複合材とすることが考えられるため、照射時の熱的安定性の評価や、発生した中性子の発生数と角度分布並びにエネルギースペクトルなどの違いを、箔放射化法等を利用し測定し、今後計画しているPHITSコードを利用したシミュレーション計算との比較のための基礎データとする。 また、今年度からポリエチレン遮へい実施の際に発生する熱中性子利用の検討を開始する。先行研究ではポリエチレン遮へいを効果的に配置することで熱中性子が効率よく発生し、重陽子照射で(n,γ)反応の利用が可能であることが示唆されている。本研究ではこの熱中性子を利用した医療用RI生成について基礎研究を開始し、実用に繋げるようデータの蓄積を行う。実施に当たっては、PHITSコード等によって効果的な熱中性子の発生状況のシミュレーションも行い実験データと比較検討する。
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