研究課題
近年、言語の神経基盤については欧米の言語を中心に報告が行われてきた。特に、脳損傷による言語の障害である失語症論においては、欧米言語による症候群や関連病巣をもとにした診断基準が作られてきた。しかし、日本語は複数の文字種をもち、文法も異なるなど欧米言語とは異なる特徴がある。これまでも日本語話者では欧米言語とは異なる特徴をもつ失語症を呈することが知られていた。また、言語は習得過程も含め個別性が高く、その神経基盤も個人差があると考えられる。本研究では、日本語話者において、言語領野を神経生理学的手法、神経放射線学的手法で明らかにし、脳損傷による言語障害について神経心理学的/心理物理学的手法で詳細に検討することにより、日本語の神経基盤を個人ごとに明らかにすることを目的とする。対象は失語症が前景に立つ認知症である原発性進行性失語症(primary progressive aphasia; PPA)と、手術を前提とした難治性てんかんである。まず、PPAの特徴を詳細に検討し、反響言語、語音認知障害などに対応する脳機能低下部位を明らかにした。また、日本語のPPAの言語的特徴を明らかにするために、漢字のみを使う中国語話者のPPAのメタアナリシスを行った。さらに漢字、ひらがな、カタカナという多くの文字種をもつ日本語の特徴を活かし、PPAにおける書字障害の検討も行った。難治性てんかん患者においては、脳血管の分枝に短期間作用型麻酔薬を注入して言語野を同定する超選択的Wadaテストを確立した。この手法を用いることにより、個々人における言語野の分布が多彩であることが分かり、治療方針の決定にも活かすことができた。以上のように、さまざまな病態よる脳損傷患者において、言語機能の神経基盤の検討を行い、日本語の神経基盤の一端を明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
原発性進行性失語症、難治性てんかん患者などを対象とした検討はほぼ予定通り進行しており、データベースの整理も進んでいる。最終年度にこれらのデータを統合することによって日本語の神経基盤を探る準備は整っており、概ね順調に進展していると考えられる。
原発性進行性失語症の症候学的、神経放射線学的解析を進めるためには、十分な症例数が必要である。そのため、東北大学だけでなく、大阪大学でも症例をリクルートし、データを収集してきた。今年は最終年度となるため、これらのデータを統合してより包括的な解析を進め、日本語話者における原発性進行性失語症と欧米言語における原発性進行性失語症の差異を明らかにする。その上で神経放射線学的データも加えて日本語の神経基盤を検討する。難治性てんかん患者においては、これまで蓄積してきた選択的Wadaテストの結果をもとに、日本語の神経基盤ならびに個々人における言語ネットワークの差異を明らかにしていく。
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