本研究では、物語的自己がどのような要因によって変化するのかを明らかにし、そのメカニズムを認知脳科学的に解明する。哲学者のギャラガーによれば、自己には身体的自己(最小自己)と物語的自己の2つの側面がある。本研究では、物語的自己が身体的自己を介して変化するプロセスに着目し、デフォルトモードネットワーク(DMN)やミラーシステムなどの前頭―頭頂ネットワークの活動を調べる。これらによって物語的自己の神経基盤を明らかにする。 2023年度はDMNの活動を操作する手法として、マインドフルネス瞑想を行っているときの脳波計測(実験2)を行った。4週間の瞑想トレーニング前後に実験を行い、ストレス課題および瞑想時の心拍変動と脳波の分析を行った。各フェーズにおいて、心拍変動からストレス評価指標として用いられるLF/HFを算出し、事前に選択した関心領域(ROI)について脳波の機能的結合度を算出した。相関分析の結果、瞑想群では、特にθ波帯においてLF/HF比の低下とPCC、mPFC、ACC、島皮質、dlPFC、上頭頂小葉などのネットワークにおける機能的結合の減衰との間に正の相関が認められた(r=0.579、p<0.01)。これらの結果より、マインドフルネス瞑想トレーニングは、DMNを含む脳領域間の機能的結合を減少させることが示唆された。今後はDMNの活動低下が物語的自己に与える影響について調べていく。 また今年度は応援と「推し」を題材として、他者への物語的な一体化が身体的自己へ与える影響を調べる実験を開始した。アンケート実験により、個々人の応援の傾向性が4パターンに分類できることを示した(東ら、2023)。現在はさらに脳活動計測実験を進めており、これらの傾向性の違いがミラーシステムやDMNの活動に与える影響について調べている。
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