研究課題/領域番号 |
21H03826
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山下 親正 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 教授 (30622188)
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研究分担者 |
秋田 智后 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 講師 (60801157)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患(COPD) / 活性型ビタミンD3 / 核移行DDS / 肺胞再生 / 吸入システム |
研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺自体の炎症が全身へ波及し、栄養障害、骨格筋機能障害などの併存症が生じる全身性炎症疾患で、世界の死亡原因第3位の疾患にも関わらず、破壊された肺胞を再生する根治治療薬が存在しない。申請者らは、活性型ビタミンD3(VD3)の経肺投与による肺胞修復効果を世界に先駆けて見出している。しかし、VD3は経肺投与の連投により高カルシウム血症を生じることも明らかにしている。そこで申請者は、「VD3含有機能性ナノ粒子の経肺投与により、VD3の作用点の核内へ効率よく送達させることで、肺胞修復効果を維持しつつ、高カルシウム血症の副作用を軽減し、肺内での炎症抑制で全身性炎症疾患も抑えることができる」という仮説を立てた。本研究では、この仮説を検証し、臨床応用できるVD3含有ナノ粒子の吸入剤化を行うことを目的に、本年度は以下の検討を行った。VD3封入細胞内環境応答脂質ナノ粒子(LNP)の有用性を検討するため、マウスに長期経肺投与した結果、VD3をLNPに封入することで、VD3の副作用である血中カルシウム濃度の上昇を抑えることができた。また、VD3封入LNPの細胞内動態を検討した結果、ApoEを介して細胞内に効率的に取り込まれた後、エンドソームを脱出し、LNP構成脂質のSS結合開裂によって薬物を細胞質内で放出することが示された。さらに、核内に移行したVD3量はLNPを用いることで増加することを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、VD3封入細胞内環境応答脂質ナノ粒子(LNP)の有用性の検討を行うと共に、細胞内動態の解明と核内送達戦略の検証を進めた。マウスへの長期経肺投与の結果、活性型VD3単独投与群は有意な血中カルシウム濃度上昇作用を示した一方で、VD3封入LNPに関しては有意な上昇は認められず、VD3の副作用である血中カルシウム濃度の上昇を抑えることが明らかになった。また、VD3封入LNPが、ApoEを介して細胞にエンドサイトーシスで効率良く取り込まれ、エンドソーム内でプロトン化し、プロトンスポンジ効果でエンドソーム膜を破壊してLNPが細胞質へ放出されることを示した。さらに、細胞質内で放出されたVD3封入LNPは細胞質内のグルタチオンでS-S結合が切断され、LNP内に封入されているVD3が細胞質へ放出されることを示し、VD3の核内移行量はLNPを用いることでFree体VD3よりも有意に増加した。 これらの知見は、本研究の目標である革新的な核内送達戦略を用いた活性型ビタミンD3によるCOPD根治治療の開発に着実に貢献していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験の結果より想定されるVD3の臨床用量は0.5 μg/kgであり、肺胞への到達率を50%とすると、VD3を1 μg含有する臨床応用できる吸入粉末剤の開発が必要である。今後は、昨年度に引き続き、VD3封入細胞内環境応答脂質ナノ粒子(LNP)の細胞内動態の解明と核内送達戦略の検証を行うと共に、吸入粉末剤として、申請者が開発した凍結乾燥吸入システム(LDPI)を用い、以下に示す吸入粉末剤の開発とその評価を行う。 1.LDPIに最適な脂質組成(機能性脂質、ヘルパー脂質、コレステロール、PEG脂質)を見出す。2.1で見出した脂質組成を基本処方として、その処方に添加する賦形剤(ロイシン、フェニルアラニン)の添加量について実験計画法を用いて最適化を行う。3.最適化されたVD3封入LNP吸入剤の吸入特性を評価する。4.最適化されたVD3封入LNP吸入剤の製造時の影響(凍結乾燥の影響)について、安定性、分化誘導活性及び吸入特性の面から評価する。
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