2023年度は、1) 認知症福祉施設でのワークショップの企画・実施、2)ワークショップの検証、3)専門家を集めた研究会、4)アーティストネットワーク構築のための調査、5)成果発信方法の検討を行った。また、6)ワークショップの検証結果をまとめ、『老年精神医学雑誌』に論文を掲載した。 202-23年度に実施したワークショップからは、認知症の人とワークショップをする上での以下のような留意点が明らかになった。(1)認知症の人たちは、馴染みのない小道具には反応が悪いこと、(2)アーティストが想定したシーンの中で認知症の人に演じてもらおうと思ってもうまくいかないこと、(3)突然の場面転換や急な設定変更にはついていけないこと、(4)過去の体験を思い起こさせるような、馴染みのある物にはさまざまな反応を示すこと、(5)ゆっくり時間をかけて、言葉だけでなく演技を交えながら文脈を作っていくと、重度の認知症の方でも何が起こっているか理解し、想像力を巡らせること、(6)何かをやってみましょうと言っても反応が悪いが、過去にどんなことをしたか、どんなふうにしたか、あるいは何がしたいか、どんなふうにしたいかという質問には反応があること。 加えて、アートに特有の効果として、(1) 非言語表現を多用することで、言語コミュニケーションが苦手な人にもアピールすることができる、(2)俳優の説得力ある演技は見る者の想像力や記憶力を強く喚起する、(3)認知症の方からのナンセンスな要求や無理難題にも創造的に解決することができることがわかった。また、(4)ワークショップのよりよい目標の設定方法についても理解が深まった。 以上は、多元的評価フレームワークを開発する際にも重要な知見である。
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