研究課題/領域番号 |
22H00630
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
港 千尋 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (40407820)
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研究分担者 |
香川 檀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10386352)
山城 知佳子 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (20937932)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 記憶と美術 / 平和学習 / 触覚的体験 / 美術教育と社会活動 |
研究実績の概要 |
本研究は近年、現代美術の社会的取り組みとして注目される「記憶の継承」について、美術制作、美術研究、教育的視点を有機的に結びつけることにより、次世代への継承に向けた方法論を構築することを目的としている。具体的には現代美術家・岡部昌生氏の作品制作とワークショップを取り上げ、広く共有するための条件を整えたいと考えている。今年度は岡部昌生氏所有の作品および資料の基礎調査と、アーカイブ化に向けた記録作業を開始した。 研究実績は、主に三つに分けることができる。まずテーマである現代美術の手法と平和学習への応用について、岡部昌生氏の半世紀以上にわたる制作と研究の全体像を知り、制作体験を通した平和学習の実際を当時の関係者からヒヤリングを行い、資料の提供を受けた。1990年代に始まりライフラークとなった、広島の被爆遺構を対象にした制作には非常に多くの市民が参加し、世代や組織を超えた連帯が生まれて、今日に至っている。制作に参加した方々や体験学習の組織に関わった方々へのインタビューも含め、貴重な肉声を記録した。 第二に現代美術の手法が戦争の記憶やその伝承において果たす役割や実例をリサーチした。岡部氏のフロッタージュ作品の出発点となった、フランスのホロコーストの祈念施設やモニュメント、ドイツにおける記憶の継承と現代美術の役割を調査するとともに、アジア太平洋地域における第二次世界大戦をテーマにした映像制作が行われた。 第三に岡部氏の作品とワークショップのスタイルを実空間で知るための展示を行った。岡部氏自身が被爆石を対象に新作を制作し、また学生や一般の参加のもと、フロッタージュのワークショップを行うことで、参加者の反応や感想も含め、メソッドとしての有効性を検証できた。以上の研究活動を大学、歴史記念館やギャラリーなど異なる種類の施設と連携して行い、フロッタージュを学びの方法として考える視座を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では現地調査、研究会、展示発表を並行して進めてゆくが、初年度としては研究者と岡部昌生氏や関係者との、研究目的と方法についての合意形成ができたことが、第一の成果である。研究者3名により北海道北広島市にある岡部氏のアトリエを訪問し、聞き取りを開始した。また札幌市内に保存展示されている、ワークショップの成果を現地調査し、当時の関係者にも聞き取りを行った。 作品資料の記録作りとしては、1950年代に始まる作家の活動のうち、1970年代以降のフロッタージュ作品に対象をしぼることに決めて、作家のメルクマールとなるような活動を中心に記録のデジタル化を開始した。作品の記録のほとんどは写真フィルムと紙であるが、初期の記録は経年劣化が進んでいるため、デジタルカメラによる記録を進めている。半世紀にわたる活動のなかで、平和教育の一環になる制作としてまず挙げなければならないのは広島における被爆遺構や被爆樹などをテーマにした作品であるが、本年度は広島での主な制作場所である旧宇品港の遺構と、市内に残る被爆樹木を岡部氏の案内で訪れて関係者による解説を記録、20年以上にわたり市民参加のワークショップを支えてきた関係者へのインタビューも行った。第二次世界大戦をテーマにしたものとしては、沖縄の伊江島に残る戦跡のフロッタージュも重要であるが、コロナの状況から離島への渡航は時期尚早と判断して、次年度に延期することになった。 以上の調査を基本的な資料にしながら、テーマに関連する分野からゲストを招いた研究会を開催した。札幌では留学生を含めた大学生や一般にも開かれたディスカッションの場を設け、テーマである「記憶の継承」を、ウクライナ侵攻という現在状況にも照らして考える視点を得ることができた。以上の内容と研究会の議論をまとめた報告書を作成し、次年度へつなげる。進捗状況としては概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、1.国内調査 2.海外展示の記録 3.動画記録 4.論文のアーカイブ化を主な柱として、研究を継続する。 1.ライフワークの広島と並んで、重要な仕事である東日本大震災関連の作品とワークショップの記録を調査する。福島での活動は震災後10年近くに及ぶことから多くの資料が福島県にあるが、特に福島県立博物館と南相馬市博物館の協力により、効率よく記録を精査したい。震災をテーマにした岡部氏と博物館との協働は、「読む・聞く・観る」教育に対して、「感じる・作る・見せる」教育の実例としても捉えることが可能であることから、博物館によるラーニングの実践という観点からも掘り下げる。 2.東アジアの歴史と記憶の継承について岡部氏が関わってきたなかで、台湾と韓国というふたつの国を重点的に取り上げ、市民参加によるワークショップの調査と記録を行いたい。具体的には現代美術におけるポストコロニアルの視点を早い時点から取り入れてきた岡部氏の作品を、これまで参加してきた芸術祭の記録を整理しつつ、これを「平和学習」の方法として捉え直す。台湾では移民と文化混交の歴史教育、韓国では済州島における現代美術家たちによる平和教育の実践を調査し、岡部昌生作品の東アジアにおける意義を明らかにする。 3.岡部氏へのインタビューを継続するとともに、アーカイブに動画記録を含めることにする。フロッタージュによる学習は、それが行われる場所の歴史性と切り離しては、意味をなさない。このことから岡部氏による制作を、場所との関係において記録するため、写真、ビデオやドローンによる空撮も含めた複合的な記録を試みる。 4.岡部昌生は教育者としての長いキャリアのなかで、多くの研究論文を残してきた。それら膨大な量のテキストの整理を開始し、並行して重要論文の英語への翻訳にもとりかかり、海外の研究者とも協働できるように環境を整えたいと考えている。
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