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2022 年度 実績報告書

環北太平洋危機言語の形成プロセスの解明に向けた地域類型論の構築

研究課題

研究課題/領域番号 22H00657
配分区分補助金
研究機関富山大学

研究代表者

呉人 惠  富山大学, 人文学部, 名誉教授 (90223106)

研究分担者 堀 博文  静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10283326)
児倉 徳和  東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (70597757)
江畑 冬生  新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80709874)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード環北太平洋域 / 地域類型論 / 危機言語 / 形成プロセス / 系統と類型
研究実績の概要

本研究は,日本北方言語学会を母体とし,シベリアから北米北西部に分布する先住民諸言語(ENAL)を対象として,ENALの類型的・系統的多様性の背後にある,言語接触のプロセスの様々な痕跡を探るための地域類型論の構築を目指す。平成4年度は,①各メンバーの専門言語の研究,②日本北方言語学会第5回大会の開催,③学会誌『北方言語研究』13号の刊行,④学会会員の言語資料刊行支援を計画し,これらの事業を実行することができた。学会員もさらに増え,その活動が国内外に認知されてきている。
①について:呉人は,コリャーク語の語類設定の諸問題に取り組み,その成果のひとつを不定詞の位置づけに関する論考(呉人 2023)として発表した他,ENALの系統関係に関するFortescue (1998)を検証した(呉人 2022)。堀はハイダ語の類別詞に関する考察(Hori 2022),ハイダ語の系統に関する考察(堀 2022)を発表した。江畑は,サハ語,トゥバ語の副動詞(江畑 2022),WH疑問文(Ebata 2022),トゥバ語の受動(江畑 2023),サハ語,トゥバ語,キルギス語の時制(江畑 2022)など広範な文法現象について発表した。児倉は,シベ語の通時的発展解明のため,17c前半の古典満洲語の行政文書の転写・翻訳を作成した他(児倉他私訳編 2023),シベ語のテンス・アスペクト形式の発展と借用について音韻的振る舞いをもとに論じた(Kogura 2022)。
②について:2022年11月26-27日に,静岡大学での対面とオンラインを併用して第5回大会を開催した。全12件の研究発表がおこなわれた。
③について:2023年3月に『北方言語研究』13号を刊行した。全14本の論文・資料が採択され掲載された。
④について:『北方言語研究別冊』として,山田祥子氏の『エウェンキー語音声資料』(CD付)を刊行した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

「おおむね順調に進展している」と自己評価するのは,「研究実績の概要」で述べたように,当初計画していた①各自の専門言語の研究,②日本北方言語学会第5回大会の開催,③学会誌『北方言語研究』13号の刊行,④学会会員の言語資料刊行支援をすべて計画通り実行することができたためである。
とりわけ,日本北方言語学会の研究成果である第5回大会では12件の研究発表,『北方言語研究』13号では14本の論文・資料の掲載が実現し,コロナやウクライナ侵攻の影響を感じさせない内容面での充実が見られた。『北方言語研究』に投稿する外国人若手研究者に対し,日本語校閲支援制度を2022年度から導入したことにより,採択件数も増加した。また,本研究が目的としているENALに関する地域類型論的な研究が大会でも学会誌でも多々見られたのは,本研究の研究内容面での大きな進展であると言える。具体的には,ツングース諸語における目的形式,アルタイ諸語における再帰表現,さらに広範な言語を対象とした北東シベリアの数詞加法表現の比較対照研究などがその代表的なものとして挙げられる。
『北方言語研究別冊』として刊行支援をした『エウェンキ語音声資料(CD付)』は,ウイルタ語研究者である編者が現地調査の際に遭遇したエウェンキ語話者から聴き取った音声資料を編纂したものであり,そうでなければ入手困難なこの言語の一次資料を収めたものとして,きわめて高い価値を持つ。
各メンバーの専門言語の研究について,当初はロシア,中国,カナダでの現地調査も視野に入れていたが,状況は好転せず,実現しなかったのは残念であった。とはいえ,各自が現地調査ができない場合も想定して,これまでに収集してきた一次資料を利用しながら,フィールド文献学的手法により,停滞させることなく着実に成果を出すことができたことは,高く評価できると考える。

今後の研究の推進方策

本研究の母体として2018年12月に日本北方言語学会を設立して4年余になる。その間,会員数も着実に増加し,現在は90名弱を数えるに至っている。特に旧大陸のアルタイ諸語やアイヌ語などを中心とした会員の増加が目覚ましい。日本人だけではなく,外国人研究者(韓国,フィンランド,アメリカ,ロシア)の入会も増えてきた。各自の研究についても,今後は中国やカナダなど地域によっては現地調査の可能性も見えてきた。ロシアについては今後もすぐには好転は望めないが,2022年度に培ったフィールド文献学的手法を活用しつつ,研究を継続していくことは可能であると考える。以上から,これまでの方針に基本的には大きな変更を加えることなく,継続的に研究を推進していくことが望ましいと考える。
その一方で,旧大陸側の研究者層の厚さに比べ,新大陸の北米側の研究者層はまだまだ手薄と言わざるを得ない状況である。北米のハイダ語を専門とする堀が2022年度から会長を引き継いだことにより,北米側の研究のさらなる進展が期待されるところである。すでに堀を中心として,北米先住民語研究の著名な研究者に学会への入会や協力依頼を徐々に開始しているが,今後より一層力を入れていくことが必要である。そのひとつの方策として,2023年11月に予定している第6回学会大会では,北米先住民諸言語をテーマに特別企画を組み,内外の専門家に発表をしていただくことを計画している。また『北方言語研究』14号への寄稿も合わせて奨励することにより,北米先住民諸言語研究の発展に重点的に取り組んでいく所存である。

  • 研究成果

    (19件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] コリャーク語の不定詞と副動詞を兼務する形式について2023

    • 著者名/発表者名
      呉人惠
    • 雑誌名

      北方言語研究

      巻: 13 ページ: 193-211

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 特集補遺データ「受動表現」「アスペクト」「モダリティ」「ヴォイスとその周辺」「所有・存在表現」「他動性」「連用修飾複文」「情報構造と名詞述語文」「情報構造の諸要素」「否定、形容詞と連体修飾複文」2023

    • 著者名/発表者名
      江畑冬生
    • 雑誌名

      語学研究所論集

      巻: 27 ページ: 471-546

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] トゥバ語の受動表現2023

    • 著者名/発表者名
      江畑冬生
    • 雑誌名

      語学研究所論集

      巻: 27 ページ: 547-550

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 環北太平洋諸言語におけるチュクチ・カムチャツカ語族の位置づけ : Fortescue(1998)の‘Uralo-Siberian’仮説の検証2022

    • 著者名/発表者名
      呉人惠
    • 雑誌名

      国立民族学博物館調査報告

      巻: 156 ページ: 51-78

    • DOI

      10.15021/00009995

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ハイダ語(北米先住民諸言語)の系統をめぐって2022

    • 著者名/発表者名
      堀博文
    • 雑誌名

      国立民族学博物館調査報告

      巻: 156 ページ: 357-385

    • DOI

      10.15021/00010006

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Verbal classifiers in Haida2022

    • 著者名/発表者名
      堀博文
    • 雑誌名

      言語研究

      巻: 162 ページ: 1-23

    • DOI

      10.11435/gengo.162.0_1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] サハ語とトゥバ語の副動詞の用法概観2022

    • 著者名/発表者名
      江畑冬生
    • 雑誌名

      北東アジア諸言語の記述と対照3

      巻: - ページ: 109-128

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] A contrastive study of WH-question suffixes in Sakha and Tyvan.2022

    • 著者名/発表者名
      Ebata, Fuyuki and Syuryun Arzhaana
    • 雑誌名

      Altai Hakpo

      巻: 32 ページ: 157-170

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] サハ語・トゥバ語・キルギス語の非過去時制と進行表現2022

    • 著者名/発表者名
      江畑冬生
    • 雑誌名

      言語の類型的特徴対照研究会論集

      巻: 5 ページ: 151-167

  • [雑誌論文] Chapter 9 On the Verbal Suffix -maXe in Sibe: The Development of Its Morphophonology and Language Contact2022

    • 著者名/発表者名
      Kogura, Norikazu
    • 雑誌名

      Endangered Languages of Northeast Asia

      巻: - ページ: 187-199

    • DOI

      10.1163/9789004503502_010

    • オープンアクセス
  • [学会発表] トゥバ語形態音韻論と接辞・接語の区別についての試論2023

    • 著者名/発表者名
      江畑 冬生
    • 学会等名
      2022年度ユーラシア言語研究コンソーシアム年次総会
  • [学会発表] 環オホーツク諸言語の接触の跡をたどる――古アジア諸語を中心に2022

    • 著者名/発表者名
      呉人 惠
    • 学会等名
      国立民族学博物館シンポジウム「環北太平洋地域の先住民社会の先史、言語、文化」
  • [学会発表] 北アメリカ北西海岸地域の言語領域と接触:北部を中心に2022

    • 著者名/発表者名
      堀博文
    • 学会等名
      国立民族学博物館シンポジウム「環北太平洋地域の先住民社会の先史、言語、文化」
  • [学会発表] サハ語・トゥバ語・キルギス語の非過去時制と進行表現2022

    • 著者名/発表者名
      江畑 冬生
    • 学会等名
      言語の類型的特徴をとらえる対照研究会 第19回公開発表会
  • [学会発表] Passive and Reflexive Voices in Sakha (Yakut) and Tyvan.2022

    • 著者名/発表者名
      Ebata, Fuyuki
    • 学会等名
      The 2022 Conference of the Altaic Society of Korea
    • 国際学会
  • [学会発表] トゥバ語複数接辞の非複数性機能:サハ語集合対格接辞との関連を視野に2022

    • 著者名/発表者名
      江畑 冬生
    • 学会等名
      日本北方言語学会第5回大会
  • [図書] 内国史院档; 順治元年Ⅰ・Ⅱ 合冊本(附:順治満文実録・元年十月)2023

    • 著者名/発表者名
      綿貫哲郎, 児倉徳和, 加藤基嗣, 相原佳之, 髙井秀招, 半田真士, 神谷秀二, 池田修太郎(訳編)
    • 総ページ数
      443
    • 出版者
      東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
    • ISBN
      9784863373990
  • [図書] 語学研究所論集調査票による例文集(サハ語)2022

    • 著者名/発表者名
      江畑冬生
    • 総ページ数
      170
    • 出版者
      新潟大学人文学部・アジア連携研究センター
  • [備考] 日本北方言語学会

    • URL

      hoppougengo.web.fc2.com

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公開日: 2023-12-25  

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