研究課題
イヌの家畜化過程の詳細は未解明だが、本研究グループは9300年前頃に日本列島へ導入されアジア大陸部のイヌと地理的に隔離された縄文時代のイヌが、東アジアの最も古い家畜犬の遺伝的系統と形態を保持していたとみている。本研究の目的はユーラシア大陸のオオカミおよび東アジアの初期のイヌの中での縄文犬の系統的位置づけを探り、家畜犬の起源に迫ることである。本研究は日本列島の縄文時代、弥生時代、奈良時代、中世の遺跡から出土した犬骨を、骨形態、次世代シーケンサーを用いた古代DNAの核ゲノム分析、同位体による食性分析などから多角的に検討し、東アジアにおけるイヌの家畜化と、日本犬の成立に至った変化の過程を明らかにしようとするものである。2023年度までに小竹貝塚(縄文時代前期, 約6000 年前)、上黒岩岩陰遺跡(縄文時代)、須和田遺跡 (8世紀後半)出土の犬骨から抽出した古代DNAからミトコンドリアおよび核ゲノム塩基配列決定を行い、ニホンオオカミのゲノムとの比較をおこなった。成果は日本動物考古学会、国際考古動物学会、進化学会などで発表した。これらの結果の英文論文preprintをBioRxiv に発表した。(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.09.29.560089v1)これまでの研究で、イヌの家畜化の初期過程が東ユーラシアで進行したことを示唆する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究で、9300年前頃に日本列島へ導入されアジア大陸部のイヌと地理的に隔離された縄文時代のイヌが、東アジアの最も古い家畜犬の遺伝的系統と形態を保持していたことが確かめられつつある。また、ユーラシア大陸のオオカミおよび東アジアの初期のイヌの中での縄文犬の系統的位置づけに関して、ニホンオオカミと縄文時代の遺跡出土犬のゲノム解析結果を検討し、両者の共通祖先がが東ユーラシアにかつて生息したこと、イヌの家畜化の初期過程が東ユーラシアで進行したことを示唆する非常に重要な結果が得られた。イヌの家畜化過程の詳細は未解明だが、本研究グループは9300年前頃に日本列島へ導入されアジア大陸部のイヌと地理的に隔離された縄文時代のイヌが、東アジアの最も古い家畜犬の遺伝的系統と形態を保持していたとみており、これまでに縄文時代の2遺跡から出土したイヌのゲノム解析に成功した。成果は国内外の学会で発表し、メディアでも取り上げられた。英文論文の投稿準備中である。
最終年度は、弥生時代以降に新たに大陸からイヌが導入されたことによって日本列島のイヌがどのように変化したかを調べる。これまでの研究で縄文時代のイヌはデンプンを消化する能力がなくオオカミと同様の肉食だったが、弥生時代に農耕民に伴って導入されたイヌはデンプン質食料を摂取することができたことがわかってきた。2024年度は現在分析を進めている青谷上寺地遺跡に加え、弥生時代の唐子・鍵遺跡からの出土犬の古代DNA分析サンプルを選定し資料所蔵機関に分析許可申請する。また、縄文時代のイヌの特徴をさらに詳しく明らかにするため、日本列島で現在最古級の出土犬である東名遺跡のイヌの古DNA分析を行う。イヌが伴侶動物として他の家畜とは異なる関係をヒトとの間に成立させた経緯を明らかにするため、縄文犬の認知、コミュニケーションに関わる行動遺伝子のタイピングを進める。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
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