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2023 年度 実績報告書

包括的生殖補助医療法の制定に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 22H00800
配分区分補助金
研究機関白鴎大学

研究代表者

水野 紀子  白鴎大学, 法学部, 教授 (40114665)

研究分担者 小浜 正子  日本大学, 文理学部, 教授 (10304560)
建石 真公子  法政大学, 法学部, 教授 (20308795)
久具 宏司  地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立墨東病院(臨床研究支援室臨床研究部), 産婦人科, 部長 (30322051)
早川 眞一郎  専修大学, 法務研究科, 教授 (40114615)
三宅 秀彦  お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (40297932)
西 希代子  慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (40407333)
石井 哲也  北海道大学, 安全衛生本部, 教授 (40722145)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード生殖補助医療 / 代理懐胎 / 生殖子 / 親子関係 / 同性婚
研究実績の概要

生殖補助医療をどのような法的ルールに基づいて実施していくのか。これは、ドナーによる人工授精が普及し始めた1950年代から問われ続けてきた問題である。その後の生命科学技術の進展に伴い、精子・卵子提供、胚提供や代理懐胎などのように第三者が関わる場合、出生前診断などのように出産の継続を問いかける結果となる技術の場合、胚に対する研究の要請の場合など、問題は拡がりをみせている。これらは生命や親子関係に関わる重要な問題でありながら、従来の法制度では解決することが難しい。
本研究は、法律学のみならず、医学や社会学の観点から、多様な専門のメンバーがこの難問にとりくんでいる。他国の状況も急速に変化しており、その変化を追いかけるとともに、地球規模で生殖補助医療ツアーが地球規模で行われるようになっている現在、国際的な規制の試みも始まっている。それらの状況の研究を続けると同時に、日本法の立法を模索している。
本年度は、それらの研究を活かして、2023年8月26日に、日本学術会議法学委員会生殖補助医療と法分科会と共催して「生殖補助医療のこれから-社会の合意に至るために考えるべきことー」と題したシンポジウムを行った。具体的には、久具宏司「生殖補助医療技術―不妊治療を超える現状」、西希代子「生殖補助医療をめぐる法的問題」、早川眞一郎「生殖補助医療の規律に関する国際社会の動向」、石井哲也「遺伝学等の進歩と日本社会と法」、建石真公子「生殖補助医療の法制化で問われる生命倫理、尊厳、自己決定権および生命権」などの報告を行い、参加者にも好評であり、議論が深まった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

生殖補助医療に対する規制態度も変動し続けている.いくつかの理由があるが,ひとつは,世界が狭くなったことによる代理懐胎ツアー等の隆盛である。規制のない国で子を得て帰国した場合,規制のある国での子の地位が問題になる。また二つ目の理由として,西欧社会ではキリスト教の影響下,近年まで同性愛が刑事罰の対象として弾圧されてきたが(1994年まで存在したドイツ刑法175条など),その反動として急速に大きくなった同性愛者の人 権擁護と同性婚のムーブメントがある。同性婚者が子を望む場合,提供精子を得やすい女性と,代理懐胎を利用せざるを得ない男性とでは,挙児の難易度に大きな相違がある。規制立法を設けていた諸国でも,生まれた子の福祉のために女性同性婚者が出産してカップルで育てている状況を公認する傾向にあるが,代理懐胎容認へのハードルは高く,同性婚者内での差が問題となっている。そして三つ目の理由として,生殖補助医療によって生まれた子たちが「出自を知る権利」を強く主張するようになったことである。生殖子ドナーの匿名性を前提としていた実務は揺らぎ,慶応大学病院は2018年にAID希望の新規受け入れを停止した。自然生殖においても匿名出産や強力な嫡出推定の歴史を持つ西欧法では,DNA上の親子関係を「知らされない権利」についても配慮の伝統があるが,日本法では議論が単純化しがちである。
これらの新しい動きにも対応した研究を進めてきたが、日本法の現状は、あまりに遅れている。問題の複雑さと状況の変化の激しさに対応する研究を進める必要がある。

今後の研究の推進方策

1980年代に体外受精が実用化されて以来,各国で生殖補助医療への規制が行われた。アメリカ合衆国は,州ごとの相違はあるものの,基本は自由化政策と,それがもたらす商業化の道を採った。対照的に,ヨーロッパ諸国とりわけドイツとフランスは,代理懐胎の禁止をはじめとする厳しい法規制を急いで立法した。対照的とはいえ,法規制のない場合は自由であるという点では,これらの西欧諸国の規制は共通している。それに対して日本は,法規制がないにもかかわらず,日本産科婦人科学会の会告による自主規制で秩序が保たれてきた点で特殊であるが,もはや自主規制では統制できない事態となっている。
2020(令和2)年成立の「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」は、親子関係に関する判例法を立法するなど、一部に対応したが、未だ実現していないものも多い。また2022(令和4)年の民法改正に対応して嫡出否認の出訴権否定を母子にも拡大する改正が行われたが、十分な議論が行われた結果とは言えない。
社会の変化、技術の発達、国際的な動きが加速する中で、今後の生殖補助医療とそれをとりまく立法の在り方について検討し、具体的な提案をまとめることとする。生殖補助医療をめぐる法律問題は、人類の歴史と未来に深く関わり、本来的に、アカデミアのみに委ねられるべき問題ではない。このような問題について、国民に、その検討の基礎となる正確な学問的情報を伝える必要がある。そのために本研究の成果を活字にして出版する予定である。

  • 研究成果

    (31件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 図書 (8件)

  • [雑誌論文] National survey of abnormal uterine bleeding according to the FIGO classification in Japan2023

    • 著者名/発表者名
      Kitahara Y, Hiraike O, Ishikawa H, Kugu K, Takai Y, Yoshino O, Ono M, Maekawa R, Ota I, Iwase A
    • 雑誌名

      J Obstet Gynaecol Res

      巻: 49 ページ: 321-330

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 遺伝医療の広がりと深まり―生殖補助医療の立場から―2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 雑誌名

      聖路加看護学会誌

      巻: 26 ページ: 41-45

  • [雑誌論文] 初経遅延と原発性無月経2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 雑誌名

      産科と婦人科

      巻: 90 ページ: 494-500

  • [雑誌論文] 女性の人生設計が変わる?卵子凍結保存がもたらす社会への影響と課題.(特集/フェムテックを考える 性・身体・技術の現在)2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 雑誌名

      現代思想

      巻: 51 ページ: 205-216

  • [雑誌論文] 特集 知っておきたい周産期・新生児医療up to date トピックス ヒト受精卵のゲノム編集と生殖利用2023

    • 著者名/発表者名
      石井 哲也
    • 雑誌名

      小児内科

      巻: 55 ページ: 1807~1810

    • DOI

      10.24479/pm.0000001398

  • [雑誌論文] 生殖補助医療の多様化と親子関係2023

    • 著者名/発表者名
      西 希代子
    • 雑誌名

      月報司法書士

      巻: 616 ページ: 31-43

  • [雑誌論文] 遺伝を考える】(I章)遺伝の基礎 遺伝カウンセリング2023

    • 著者名/発表者名
      三宅秀彦
    • 雑誌名

      日本医師会雑誌

      巻: 152 ページ: S59-S62

  • [雑誌論文] 民法を機能させる条件(上)2023

    • 著者名/発表者名
      水野紀子
    • 雑誌名

      法曹時報

      巻: 75巻7号 ページ: 1-13

  • [学会発表] 性同一性障害者が生殖補助医療を用いて生まれた子の法的親子関係2024

    • 著者名/発表者名
      西 希代子
    • 学会等名
      GID学会
  • [学会発表] ≪ L’Etat de droit et la dignite en fin de vie ≫2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroko TATEISHI
    • 学会等名
      XIVme seminaire Franco-Japonais de Droit Public, L’ETAT DE DROIT FACE DES SOCIETES BOULEVERSES, 22 fevrier 2023, l’ Universite Rissho.(招待講演)(国際学会)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Triage, ≪fin de vie ≫ et droits des patients2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroko TATEISHI
    • 学会等名
      SEMINAIRE DE RECHERCHE FRANCO-JAPONAIS CONCILIER SANTE ET DROITS FONDAMENTAUX EN PERIODE DE PANDEMIE- UNE ANALYSE JURIDIQUE DES EXPERIENCES DE LA FRANCE ET DU JAPON
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 「Fin de vie における治療の決定:CCNE AVIS 139、 憲法院およびヨーロッパ人権裁判所判例における 生命権・自己決定権・尊厳の位相」2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroko TATEISHI
    • 学会等名
      第43回慶應義塾大学フランス公法研究会、 2023年3月11日(土)13時00分~17時30分、慶應義塾大学三田キャンパス 南館地下1階2B13教室。オンライン報告
    • 招待講演
  • [学会発表] トランスジェンダーの妊孕能温存の法的倫理的問題2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 学会等名
      シンポジウム「トランスジェンダーと妊孕性温存」、第13回日本がん・生殖医療学会学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 生殖補助医療技術-不妊治療を超える現状2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 学会等名
      日本学術会議・生殖補助医療シンポジウム
  • [学会発表] 生殖医療の将来と倫理上の懸念事項2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 学会等名
      第38回日本女性医学学会学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 生殖医療と社会の関わり~生殖技術≠不妊治療~2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 学会等名
      第66回北海道生殖医学会学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 医学用語にみられるさまざまな“ゆらぎ”2023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 学会等名
      指定シンポジウム2「解剖学用語の過去・現在・未来」. 第129回日本解剖学会全国学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 多遺伝子リスクスコアの倫理:成人、未成人、胚にとってのリスク2023

    • 著者名/発表者名
      石井哲也
    • 学会等名
      日本医学・哲学倫理学会
  • [学会発表] 将来の子の知能を予想する着床前検査の倫理:親と社会の観点2023

    • 著者名/発表者名
      石井哲也
    • 学会等名
      日本生命倫理学会
  • [学会発表] 生殖補助医療の規律に関する国際社会の動向2023

    • 著者名/発表者名
      早川眞一郎
    • 学会等名
      日本学術会議・生殖補助医療シンポジウム
  • [学会発表] 生殖補助医療をめぐる法的問題2023

    • 著者名/発表者名
      西 希代子
    • 学会等名
      日本学術会議・生殖補助医療シンポジウム
  • [学会発表] 生殖補助医療の法制化で問われる生命倫理、尊厳、自己決定権及び生命権2023

    • 著者名/発表者名
      建石真公子
    • 学会等名
      日本学術会議・生殖補助医療シンポジウム
  • [学会発表] 遺伝学等の進歩と日本社会と法2023

    • 著者名/発表者名
      石井哲也
    • 学会等名
      日本学術会議・生殖補助医療シンポジウム
  • [図書] からだがかたどる発達 人・環境・時間のクロスモダリティ(根ヶ山光一・外山紀子編著)、コラム①生殖技術.(第1章 礎としてのからだ),pp47-482024

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 総ページ数
      447
    • 出版者
      福村出版
  • [図書] 『<ひと>から問うジェンダーの世界史第1巻 「ひと」とはだれか?―身体・セクシュアリティ・暴力』2024

    • 著者名/発表者名
      三成 美保、小浜 正子、鈴木 則子
    • 総ページ数
      277
    • 出版者
      大阪大学出版会
    • ISBN
      978-4-87259-777-6
  • [図書] 『世界と日本のC0VID-19対応』建石真公子「COVID-19禍のヨーロッパ諸国のトリアージ・ガイドラインにみる患者の権利」(執筆箇所は142-157ページ)2023

    • 著者名/発表者名
      石村修ほか編 建石真公子(分担執筆)
    • 総ページ数
      392
    • 出版者
      敬文堂
    • ISBN
      9784767002552
  • [図書] Naitre ou ne pas naitre, De l'Antiquite au XXIe siecle. Hiroko Tateishi,≪ Sterilisation forcee au Japon. Questions relatives aux droits et liberte soulevees par l'ancienne loi sous la protection eugenique et les personnes transgenres ≫(執筆担当箇所 773-784ページ)2023

    • 著者名/発表者名
      Francois Vialla, Vielfaure Pascal et Lambert-Garrel Luciel(編著), Hiroko TATEISHI (分担執筆)
    • 総ページ数
      1029
    • 出版者
      LEH Edition
  • [図書] 『「人間の尊厳」とはーコロナ禍を経て』 建石真公子「「第2章 終末期(人生の最終段階)における治療の選択と 「尊厳ある人生の終わりを迎える権利」とは── フランスにおける Covid-19 禍のもたらした 「死と尊厳」の再検討の動きから」(執筆箇所は51-85ページ)2023

    • 著者名/発表者名
      香川知晶、土井健司(編著) 建石真公子(分担執筆)
    • 総ページ数
      236
    • 出版者
      日本学術協力財団
  • [図書] 『プロヴァンスからの憲法学―日仏交流の歩みー』 建石真公子「人権解釈と代理懐胎―フランスと日本の場合―」(執筆箇所は 294-308ページ)2023

    • 著者名/発表者名
      長谷川憲ほか(編著) 建石真公子(分担執筆)
    • 総ページ数
      378
    • 出版者
      敬文堂
    • ISBN
      9784767002569
  • [図書] 新国際人権法講座第二巻『国際人権法の理論』 第12章「国際人権法と生命倫理および生命法(Bio-droit)」(執筆箇所は 277-305ページ)2023

    • 著者名/発表者名
      小畑郁、山元一(編著) 建石真公子(分担執筆)
    • 総ページ数
      324
    • 出版者
      信山社
    • ISBN
      9784797228625
  • [図書] 産科診療Pros & Cons 母体・胎児をめぐる6つの論争(室月淳編著)、妊婦本位のNIPTを目指して(第6章NIPTの認証制度は是か非か?),pp162-1672023

    • 著者名/発表者名
      久具宏司
    • 総ページ数
      188
    • 出版者
      メディカ出版

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公開日: 2024-12-25  

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