研究課題/領域番号 |
22H00843
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大塚 啓二郎 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 特命教授 (50145653)
|
研究分担者 |
真野 裕吉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40467064)
MAGEZI EUSTADIUS・FRANCIS 東北大学, 農学研究科, 助教 (40909222)
加治佐 敬 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (50377131)
中野 優子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (60648674)
木島 陽子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (70401718)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 貧困削減 / 緑の革命 / 灌漑水の稀少化 / 節水栽培 / 持続可能な灌漑稲作 |
研究実績の概要 |
2022年度は、限られた予算で最大限の成果を上げるために、ケニアの大規模灌漑地域であるMweaに研究の焦点を当てることにし、370軒の稲作農家の調査を実施した。Mweaは緑の革命に成功し、サブサハラ以南のアフリカの灌漑稲作の中で最も生産性が高いことで知られている。しかしながら、不順な天候による灌漑水量の低下傾向とともに、コメの増産を実現するために灌漑面積を拡大しており、灌漑水の稀少性が高まりつつある。もし灌漑水が不足すれば、緑の革命の持続可能性に赤信号が灯りかねない。そこで奨励されているのが、湛水状態と乾燥状態を交互に繰り返す間歇灌漑を主体とする節水栽培である。先行研究により、間歇灌漑の採用が温室効果ガスであるメタンの発生を抑制することが明らかにされているが、節水栽培の生産性や利潤への影響は十分に解明されていない。 本研究の狙いは、節水栽培の普及状況と生産性への効果を計測することである。そのために、灌漑水の供給が安定している上流地域、不足気味の下流地域、さらに本来的にはMweaの灌漑水を利用する権利はないが盗水や排水を利用している2つの地域の農家から、稲作に関するデータを収集し、比較分析をした。 主要なファインディングスは、(1)間歇灌漑は全体的には60%を超える水田で採用されており、(2)それは灌漑水の供給が安定している上流地域で採用される傾向が強く、(3)間歇灌漑は根の発育を促進して生産性を向上させるばかりでなく、(4)上流地域から下流地域等への灌漑水の供給を増加させることで、Mwea灌漑地区全体の生産性を高めている可能性が高いというものである。もしそうであれば、間歇灌漑の普及はさらに奨励されるべきである。 具体的な研究成果は次年度に論文にする予定であり、本年度は研究代表者の著書と編書の出版が主な業績となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収集されたデータは選択バイアスの問題を抑制するため、内生性スイッチング回帰モデルendogenous switching regression modelと呼ばれる計量経済学的手法を用いて分析された。その推定結果から、間歇灌漑は土地面積当たりの単収を約9%、籾米の価格を約10%、利潤を約4%増大させていることが分かった。利潤の増加率がやや低いのは、節水栽培が頻繁な灌漑水の管理や除草などの追加的な作業を必要とし、労働使用的で労働費がかかるからである。こうした研究成果は、”Sustaining the Rice Green Revolution under Growing Water Scarcity: The Case of Mwea in Kenya” by Y. Mano, T. Njagi, K. Takahashi, and K. Otsuka、と題する論文としてまとめられつつある。その意味で、研究はおおむね順調に展開していると言ってよい。 しかしながら、選択バイアスの問題をさらに抑制し、節水栽培の稲作の生産性や利潤への効果をいっそう厳密に検証するためには、節水栽培が導入される以前の状況と比較することが有効であると考えられる。幸いなことにMweaでは、節水栽培が奨励される以前の2011年と2017年にも同じ研究ティームが農家調査を実施している。そこで、パネルデータの構築の可能性を探るとともに、少なくとも2022年とそれ以前では、地域間の稲作の生産性がどの程度変化したかについて解明したい。またできる限り、節水栽培の導入によるMwea灌漑全体での生産性の向上への効果について推定したいと考えている。現在、こうした作業を実施中であり、上記の論文内容をさらにアップグレードすることを目指している。
|
今後の研究の推進方策 |
円安傾向によって調査費が実質的に減額したために、本研究プロジェクトを、ケニアに加えてモザンビーク、タンザニア、ウガンダの3カ国で実施するには資金の不足が予想される。そこで、この研究に以前から関心を寄せていた国際協力機構緒方貞子平和開発研究所と議論した結果、タンザニアとウガンダの研究に対して、同研究所からそれぞれ約15,000千円の支援が受けられることになった。そのため、来年度以降タンザニアとウガンダの研究に支出する予定であった予算をほぼ全額モザンビークの研究に充当することにし、今年度10,400千円を配分することを希望する。こうした計画の変更によって、より詳細なデータの収集と厳密な研究の実施が可能になり、本プロジェクトの目的をよりよく達成できると考えている。 したがって、2023年度は、モザンビークの中部地帯にある天水田地域での稲作技術の向上を評価することに集中したい。この地域では、2016~17年にかけて17カ所の天水田地域と5カ所の灌漑地域で稲作栽培の研修が実施された。その当時、約500軒の稲作農家について調査が実施されており、研修前と研修直後についてのデータが収集されている。前回までの調査からは、天水田地域において、栽培研修は農家の単収を短期において約30%上昇させるが、採用農家は限定されており、研修参加者から他の農家への技術のスピルオーバーが限定的であることが将来の課題であることが分かった。そのボトルネックの一つは、技術を教わりたい側が研修参加者にコンタクトを取りたくても連絡先が分からないという問題である。それを受け、前回の調査の中で先進農家の圃場に連絡先を書いた看板を設置するという介入をランダムに行っている。本研究の調査では、その介入のインパクト評価を行うことにより、普及促進のための政策提言を充実させたい。加えて、栽培研修の効果の持続性、灌漑の重要性も検討する。
|