研究課題/領域番号 |
22H00855
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西村 幸浩 大阪大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90345471)
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研究分担者 |
森田 薫夫 福岡大学, 経済学部, 准教授 (00802737)
清田 耕造 慶應義塾大学, 産業研究所(三田), 教授 (10306863)
長谷川 誠 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (50722542)
高松 慶裕 明治学院大学, 経済学部, 教授 (90454016)
大越 裕史 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (90880295)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 租税競争 / 利益還流 / 最適課税 / 多国籍企業 / 移転価格 / 経済厚生 |
研究実績の概要 |
労働生産性と労働の不効用がheterogeneousなもとで、保険不可能なリスクに直面する納税者が就業選択と資産蓄積(予備的貯蓄)をする動態モデルにおいて、定常的な非線形労働所得税ルールを検討した。再分配的課税は就業選択と予備的貯蓄に影響を与えるため、長期的な家計の貯蓄行動と資産分布に重大な影響を及ぼす。自然な動学均衡として、再分配時点での資産分配レベルに基づいて福利厚生を最大化することを目的とした場合と、資産配分が定常状態に達したときの社会厚生を最適化する長期最適税制を考察した。分析はシミュレーションを通じて行った。 2009年に、日本は、海外子会社が親会社に支払う配当金の本国課税を免除する税制を導入した。この税制改革が日本の多国籍企業による利益移転に及ぼす影響を、同時期において全世界課税方式をとっていたアメリカと日本の多国籍企業の行動比較をすることで、日本企業が利益移転のインセンティブに反応したことを示した。 原産地規則 (ROO) を伴う自由貿易協定 (FTA) は、垂直統合された多国籍企業の、原料生産場所に影響を与える。 FTAによる企業移転で変わるのは、多国籍企業内での決定権の配分と、移転価格の目的を租税回避から製品市場の競争力強化に変異させることである。FTAに誘発された企業移転により、FTAにより関税が撤廃されるにもかかわらず、企業移転後の意思決定は、多国籍企業と地元企業の両方に損害が生じさせる可能性があることが示された。 高税率国の生産拠点から低税率国の販売子会社に財を輸出する際は、多国籍企業は低い企業内価格を設定する誘因がある。一方で、輸入国は国内企業を保護するためにアンチダンピング措置を発動することができる。移転価格設定に対する規制を強化することが、輸入国のアンチダンピング措置を誘発し、そのことが経済厚生に与える影響を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年に続きSymposium of Public Economics (SOPE、オンライン)を開催し、欧米と日本から気鋭の報告者を集い、充実した学会を開くことができた。本研究課題からは、研究分担者大越裕史が報告をした。研究の進展に関しては、令和4年度の研究計画であった、労働生産性と労働の不効用がheterogeneousなもとでの、動態的な経済における定常的な非線形の労働所得税ルールを考察したKataoka and Takamatsu (2024)では、再分配時点での資産分配レベルに基づいて福利厚生を最大化することを目的とした場合と、資産配分が定常状態に達したときの社会厚生を最適化する長期最適税制を考察した。2009年の配当金本国課税免除税制(territorial regime)が利益移転に及ぼす影響を検証したHasegawa (2023)では、同時期において全世界課税方式をとっていたアメリカと日本の多国籍企業の行動比較をすることで、日本企業が利益移転のインセンティブに有意に反応したことを示した。令和6年度は、令和5年度の研究進捗をもとに、研究を進める。国際租税競争と税務執行に関する論文の改訂、機械化(automation)に伴う「ロボット課税」、利潤移転と製品差別化間における相互関係、デジタルコンテンツのプラットフォーム課税に関する研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の研究進捗をもとに、研究を進める。 国際租税競争と税務執行に関する論文の改訂を行う。当初のモデルを、直近の研究に沿った、タックスヘイブン(租税回避国)を含んだ複数国モデルに改訂することで、当初の論文の結果が補強されることを予想する。また、租税競争均衡は存在することを示す。 機械化(automation)に伴う「ロボット課税」を考察する。ロボット課税を財源とした失業給付の設計においては、資本(機械)課税の帰着において、開放経済を考えるか、資本移動がより硬直的な経済を考えるかが、あり得る税制設計に影響を及ぼすと予想される。 製品差別化が進むにつれて、消費者効用や企業の利潤の増加が期待されるが、他方で独立企業間価格原則(ALP)の適用が困難になるため、多国籍企業の租税回避行動を摘発することが困難になる。このような製品差別化の特徴を考慮に入れ、利潤移転と製品差別化間における相互関係を分析する。利潤移転の機会は多国籍企業の製品差別化への投資を増加させることが予測される。今までにない、利益移転の機会が社会厚生を増加させうる要因を明らかにする。 消費税の徴税に伴う企業参入の歪みを是正するために、海外で生産されたゲームソフトや音楽などのデジタルコンテンツがオンラインで取引された場合は、プラットフォーマーに納税義務を持たせるという税制改革を検討(2025年からの運用)している。その一方で、プラットフォーマーへの課税は、アプリ登録手数料への転嫁とそれに伴う参入の抑制によって、副次的に市場の歪みを生む可能性がある。そこで、デジタル経済に向けた新しい税制改革がもたらす社会厚生の効果について分析を行う。 物品税が補完的に導入されたときに、最適な労働所得税率が増加するかどうかは、文献において結論がまだ出ていない。本研究においては、最適な労働所得税率、および最適物品税率に関する新しい研究を進める予定である。
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