研究課題/領域番号 |
22H00856
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
湯之上 英雄 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (10509590)
|
研究分担者 |
広田 啓朗 武蔵大学, 経済学部, 教授 (10553141)
小川 禎友 関西学院大学, 経済学部, 教授 (30330228)
齊藤 仁 和歌山大学, 経済学部, 准教授 (50707255)
竹本 亨 日本大学, 法学部, 教授 (60551512)
倉本 宜史 京都産業大学, 経済学部, 准教授 (70550309)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 地方分権 / 政策競争 / 租税競争 / 空間計量分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的に記したように,分権的な体制へと移行途中である日本の都道府県・市町村を題材として,疑似実験手法を用いて,政策競争に関する因果関係の識別及び,地方分権の有効性を左右する経済的・社会的な要因を分析を行った。 今年度は,地方財政再建特別措置法(旧再建法)における財政再建手法の検証,地方財政健全化法の導入による財政運営への影響,発生主義的な財務諸表の導入が市町村の歳出に与える影響,都道府県境をまたぐような合併における財政的コモンプール問題の検証,水道料金における政策競争の分析,公共施設等総合管理計画の策定が小学校統廃合に与えた影響について,差の差分析(Differences in Difference),イベントスタディ(Event Study),合成コントロール法(Synthetic Control Method),空間計量などの手法を用いて,実証分析を行った。また,地方法人課税について,より現実に近いと考えられる非線形な資本課税を想定して,地域間の租税競争の分析を行った。さらに,地方政府の模倣行動の原理を探るべく,経済実験を用いて,身近な存在と身近ではない存在の違いが模倣行動に違いをもたらすことを示した。 これらの研究成果は,学会やセミナー・研究会で報告するとともに,専門誌に投稿を行ってきており,一部の研究成果は,The Annals of Regional Science誌,Economic Analysis and Policy誌,European Journal of Political Economy誌などに刊行予定もしくは,刊行済みとなっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地方政府の財政運営に対する理解を深めるため,財政破綻に直面した市町村を対象として,国の管理下で再建するケースと自主再建を目指すケースの財政効果の検証に取り組んでいる。また,地方政府の政策競争の効果を測るために,法人税の均等割りにおける政策競争モデルの作成を開始している。法人税における政策競争を分析するため,国内外の関連する先行研究のサーベイを行い,先行研究を参考に分析モデルについての検討を行った。さらに,都道府県や市町村データを収集・整理した上で,都道府県・市町村の課税状況に関するデータや財政変数などのデータ収集を行い,差の差分析や空間計量モデルによる推定を実施した。 これらに加えて,どの様な要因が地方政府の政策競争に影響を与えるのかを,歳入面と歳出面で確認した。特に,政策競争による負の影響を減少させるために,国による関与が地方政府に影響を与えていることを確認できた。また,歳出の決定要因は他地方政府との政治的関係だけでなく,自地域内の政治状況からも影響を受けることを把握できた。 理論分析では,ある政策をすでに実行している他地域が多いほど,政策実行費用が下がる費用関数を構築した。費用関数は,面積や人口等が類似している他地域が政策を実行しているときほど,その費用削減効果が大きくなる特徴を想定して分析を進めている。 経済実験を用いた地方政府の模倣行動についての分析では,心理学の実験でも確認されている内集団バイアスに注目して経済実験を構築した。これまでは,利得の分配において外集団より内集団を優先することが知られている一方で,参照相手として内集団を優先するかどうかは確認されていない。そこで,他の参加者の意思決定を参照する際に有用性では劣る内集団の情報を選ぶのかを,コーディネーション・ゲームで検証した。その結果,参照行動においても内集団バイアスの存在が確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
地方財政再建特別措置法(旧再建法)の検証として,財政破綻後に自主再建を選択した団体と国の管理下での再建を選択した団体の再建行動を比較するため,合成コントロール法(Synthetic Control Method)を用いた検証を行う。また,地方政府が実施する超過課税制度に焦点当てて,地方における分権的政策の因果効果の計測を試みる。その際,空間的相互作用を考慮しながら因果効果を計測するため,GISデータから地理情報を抽出して,Spatial Difference in Differencesを用いた分析をおこなう。 今年度の実証分析の結果を踏まえ,非対称な環境にある地方政府を前提とした政策競争のモデルにおいて,どのような条件下で,ある地方政府による政策の導入が,実際に他の地方政府に影響するかを確認する。そして,政策競争が起こる場合の解決策としての,国の方策を明らかにしたい。また,地方政府のおかれている環境については,自然環境だけでなく,その地方政府がどれだけ住民から支持されているかといった政治環境の違いも考慮したい。 また,理論分析においては,他地域の政策により自地域の政策実行費用が影響を受ける費用関数を用いて租税競争問題を分析する。租税競争を行う地域が同質的なケースをベンチマークとし,面積・人口などが異なる地域間の租税競争を分析して,均衡税率がベンチマークケースとどのように異なるかを調査する。 さらに,今年度は複数回の実験室実験を実施して,概ね仮説を支持する結果を得られた。今後は,この結果を小規模の研究会や学会等で報告を行い,専門誌への投稿を行っていく。また,内集団バイアスの頑健性を集団意識に関する実験デザインを変えて確認するとともに,バイアスの特徴を明らかにするための実験室実験を行っていく。
|