研究課題/領域番号 |
22H00862
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石島 博 中央大学, 法務研究科, 教授 (20317308)
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研究分担者 |
前田 章 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30317309)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ESG投資とカーボンニュートラル / 金銭的リターンと環境・社会的インパクトの両立 / ESGを考慮した資産価格評価 / 気候変動リスクを考慮したポートフォリオ選択 / テキスト分析によるESG格付とスコア |
研究実績の概要 |
2050年の脱炭素社会の実現に向け、世界的な潮流となっている、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を考慮したESG投資の本質は、①市場平均を超えるリターンをもたらし、かつ、②ESGに良いことをする、という「ダブルボトムライン効果(ダブル効果)」にある。また、E、S、Gのなかで、カーボンを主要因とするE(気候変動)が、最も重要な現代的問題である。そこで本研究は、(P0)カーボンのニュース等のテキスト情報より、(P1)ESGセンチメントの構築、(P2)ESG価格指数の構築、という研究項目に取り組むことにより、(P3)株式投資等のダブル効果を可視化し、ESG投資の本質を解明することを目的とする。本研究の目的を達成すべく、本年度は以下の研究項目を実施した。 (P2) ESG価格指数の構築:ESG投資が包含するダブル効果を①既知の企業財務変数で説明するキャッシュフロー価値、②カーボン削減等のESGに関する便益を享受するヘドニック価値、によって評価するESG資産価格評価モデルの理論構築を行った。 (P3) ダブル効果の可視化:上場企業のカーボン削減等の取り組みに対する評価を、株価に反映された「ESG価格」という金額で表現し、これを株価と同頻度の時系列として得ることにより、ダブル効果を可視化する実証分析を行った。 また、“JAFEE-ISM International Symposium on Quantitative Finance”を中央大学にて開催し、本研究成果を国際水準で結実すべく、世界各国の研究者と議論を深めた。また、Henry Chiu博士(Imperial College London)が主催したworkshopにて石島が講演するとともに、JAFEE-ISMシンポジウムにてChiu博士に講演していただき、議論を通じて本研究の方向性について新たな知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、代表者・石島と分担者・前田を中心として、研究協力者(研究代表者の研究室出身者)の専門的知識を得て本研究を効果的に実施している。 すなわち、研究計画調書および研究実施計画に沿って研究項目を着実に遂行しており、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己評価している。 特に、研究項目「(P3)株式投資等のダブル効果の可視化」において、大きな成果が得られつつある。具体的には、日本の株式市場において、二酸化炭素排出量を削減する企業は評価され、株価リターンが高くなるというダブル効果の存在を実証した。これは、米国や中国の株式市場における先行研究(Bolton and Kacperczyk 2021a,b)とは異なる結果である。 こうした日本の株式市場においてユニークに観測されるダブル効果の可視化をさらに推し進めるべく、気候変動の主要因であるカーボンを削減する資産運用ポートフォリオの構築方法という新たな着想を得て、順調に研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においても、代表者・石島と分担者・前田が中心となり、研究協力者と協働して効果的に実施することとする。具体的には、研究計画調書および研究実施計画に沿って、以下の研究項目を効率的に実施する予定である。 (P3) ダブル効果の可視化:ESG投資から享受する効用を金額で表した「ESG価格」を可視化する。すなわち、上場企業のカーボン削減等の取り組みに対する評価を、株価に反映された「ESG価格」という金額で表現し、これを株価と同頻度の時系列として得ることにより、ダブル効果を可視化する。その上で、カーボン価格等の変動リスクについて、株式投資と同じファイナンス理論を適用する。特に、気候変動の主要因であるカーボン価格の変動リスクを最小化する資産運用ポートフォリオや、気候変動リスクの管理方法を構築する。さらに、その変動リスクに関連した実証分析を、株式等の金融市場や不動産市場を対象にして実施する。 2024年度は研究計画の最終年度となるため、本研究成果の取りまとめも同時に進めることとする。その前提として、2022-23年度において先導的なESG研究者が参加する国際会議にて発表を行い、多様なフィードバックを得た。これを踏まえて本研究を格段に向上させ、学術雑誌への投稿・掲載等を行う。
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