研究課題/領域番号 |
22H00897
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
中尾 悠利子 関西大学, 総合情報学部, 准教授 (50738177)
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研究分担者 |
石野 亜耶 広島経済大学, メディアビジネス学部, 准教授 (50639424)
國部 克彦 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (70225407)
田中 優希 法政大学, 経済学部, 教授 (00636178)
西谷 公孝 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (30549746)
岡田 華奈 大阪経済大学, 経営学部, 講師 (30799929)
奥田 真也 名古屋市立大学, データサイエンス学部, 教授 (40351431)
Weng Yiting 神戸大学, 経営学研究科, 助教 (50975381)
増子 和起 就実大学, 経営学部, 講師 (20848642)
越智 信仁 関東学院大学, 経営学部, 教授 (70758771)
牟禮 恵美子 青山学院大学, 会計プロフェッション研究科, 教授 (30393052)
大西 靖 関西大学, 会計研究科, 教授 (80412120)
北田 皓嗣 法政大学, 経営学部, 准教授 (90633595)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ESG評価 / 機械学習 / ESG投資 / サステナビリティ報告 / 統合報告 / AI |
研究実績の概要 |
本研究では、ESG評価機関に独占されてきたESG評価を、AIを活用して誰でも評価可能とすることを目的に、企業のESG情報開示を対象としたAIによるESG評価モデルの構築を実施した。 先行研究レビューより、既存のESG評価機関のスコアをもとにAIのモデルを構築している研究は存在するものの、企業のESG情報開示を直接対象としてAIによる推定モデルを構築している研究は見当たらないことを確認した。そこで本研究では、RobecoSAMのESG評価モデルを参考に、企業の開示するESG情報からAIを用いてESG評価の推定を試みた。 具体的には、Bloombergのデータベースから1300社のESGのスコアを収集し、ニューラルネットワークの一手法であるDeep Averaging Networks(DAN)を用いて、ESG報告のテキストと企業の業種情報からRobecoSAMのESGスコアの下位企業を推定するモデルを構築した。その結果、経済スコア、環境スコア、社会スコアの推定において、F値がそれぞれ0.70、0.67、0.75という一定の精度が得られた。本研究の特徴は、誰でも入手可能な公表媒体であるESG報告を対象に、AIによるESG評価の推定モデルを構築したことにある。この技術の発展により、ESG評価機関に独占されていた分析を投資家と企業に開放することができれば、ESG投資のより民主的で多様な発展に貢献できると考えられる。 今後は、本研究で構築したモデルと、GRI対照表を用いたESG評価の推定モデルとの比較を行い、より精度の高いESG評価の推定手法の確立を目指す。また、ESG報告以外の企業の開示情報も活用し、より多面的なESG評価の推定を試みることで、AIを活用したESG評価の可能性を展開することを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、先行研究のレビューを通じて、既存のAIを用いたESG評価研究の特徴と課題を明らかにした。多くの研究がESG評価機関のスコアを前提としているため、評価機関から独立したモデル構築が困難であることが分かった。また、GRI対照表などの限定的な情報源を用いた研究も見られるが、企業のESG情報開示全体を対象とした研究は見当たらなかった。 次に、AIモデル構築の準拠とするESG評価手法としてRobecoSAMのCSAを選定し、その特徴を分析した。CSAは質問票調査を重視し、業種固有の評価項目を設定するなど、バランスの取れた高品質な評価手法であることを確認した。一方で、評価プロセスの一部にブラックボックス的な要素もあることから、AIによる再現の意義が大きいと判断した。 そして、実際に1300社のESG報告書データを収集し、Deep Averaging Networksを用いて下位企業の推定モデルを構築した。推定精度を評価した結果、経済・環境・社会スコアでそれぞれ0.70、0.67、0.75のF値が得られ、一定の推定性能を示すことができた。 以上のように、本研究は着実に進展しており、ESG評価の民主化に向けた新たなアプローチの可能性を示しつつある。今後は、大規模言語モデルを活用したモデルの開発や、ESG評価自体の課題を既存のESG評価機関のスコアとの比較により明らかにしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、AIのひとつである大規模言語モデル(LLM)を用いて、企業のサステナビリティ報告を対象としてESG評価を自動判定する手法を開発する。バリューモデルとは、企業のサステナビリティ活動をステークホルダーの観点から評価するための枠組みであり、本研究で用いたモデルでは、従業員、顧客、社会、環境など7つのステークホルダーカテゴリーに対して81の実践目標を設定している。このモデルは、GRIやSASBなどの既存のサステナビリティ報告フレームワークを統合しつつ、ステークホルダー価値の継続的な改善に焦点を当てている点に特徴がある。 現在、バリューモデルの一部のステークホルダーを対象に実施しているが、研究をさらに発展させるためには、以下のような取り組みが必要である。 第1に、バリューモデルの対象を従業員以外のステークホルダーにも拡大し、企業のサステナビリティ報告からESG評価をより多面的に行うことである。さらに、LLMによる自動判定の精度を高めるために、サステナビリティ報告の内容により合致した質問を設定し、回答の根拠となる情報を求めるようにすることである。 第2に、多くの企業への適用を通じて、バリューモデルの一般化可能性を検証するとともに、業種特有の課題を明らかにすることである。また、バリューモデルによる評価結果を企業にフィードバックし、実際の改善活動につなげる仕組みを構築することが求められる。加えて、本研究で提案したアプローチをESG評価の文脈に位置づけ、既存の評価手法との比較や統合の可能性を探ることが重要である。バリューモデルに基づく評価は、従来のESG評価の課題を克服する新たな視点を提供することを目指している。
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