研究課題/領域番号 |
22H00939
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
八巻 知香子 国立研究開発法人国立がん研究センター, がん対策研究所, 室長 (60392205)
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研究分担者 |
岩滿 優美 北里大学, 医療系研究科, 教授 (00303769)
高山 亨太 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869919)
杉山 庸子 (井花庸子) 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 医師 (20838651)
土屋 雅子 武蔵野大学, 看護学研究所, 客員研究員 (30756416)
奥原 剛 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (70770030)
三村 麻子 国立研究開発法人国立がん研究センター, がん対策研究所, 研究員 (80936667)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ヘルスリテラシー / 処理流暢性 / 障害 / アクセシビリティ |
研究実績の概要 |
知的障害者の向けの「わかりやすい版」がん資料を作成し、知的障害分野の支援職による評価を行った。文章、イラスト共に8割の回答者が分かりやすいと評価したが、文章とイラストの対応をより明示したほうがよいなど、情報の焦点を絞りつつ言語と視覚が同一の情報を伝える方がよいのではないかという意見が複数あった。 糖尿病をもつろう者やその家族、支援者計12名へのインタビューを行った。受診時に医療者とのコミュニケーションが困難であること、糖尿病や健康についてろうコミュニティの中での情報交換が少なく、健聴者が生活の中で得ている情報が得られていないことが語られた。伝わる情報であるためには、日本語資料からの翻訳情報だけでなく、より一般的な基礎情報や、受診時の医療者とのコミュニケーションのとり方等をろう者の生活感覚に合わせて情報提供する必要があること、医療者にもろう患者の来院時に提供すべき合理的配慮などを教育することが併せて必要であることが示唆された。 知的障害者向けの「わかいりやすい版」に関する研究・実践動向のレビューでは、日本語媒体でも、英語圏の媒体でも、文字数を少なくする、二重否定は避けるなど用語の用い方の工夫とそれを測定するツールも開発されていた。また、イラストを多用することが一般的であった。それらは経験則として共通していたが、処理流暢性の観点からの評価がなされたことはなかった。 ナラティブ情報と知識情報の双方を掲載している「AYA世代のがんとくらしサポート」で複数の記事行き来しやすくするハッシュタグ#の利用を算出した。ハッシュタグ#ページの閲覧は全体の4.5%であったが、利用されたタグは、「子宮摘出」「性の悩み」「副作用」「性生活」「食事」「性行為」であり、医学の範囲を超える情報や、性的なことなど人に尋ねにくい情報が多かった。これらの情報を明示的なキーワードで提供することの重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存の知的障害者向け「わかりやすさ」の評価方法のレビューにおいて、経験則としての評価方法は国内外で同様であったが、処理流暢性の観点による評価は皆無であった。しかし、本研究で行った「わかりやすい版」の評価は、文章とイラストの対応を明確にして、平易に伝えることの重要性の指摘など、処理流暢性の重要性を示唆する結果であった。このことから、本研究が目的とする処理流暢性の観点からの情報評価の妥当性が間接的に確認されつつある。 アクセシブルな資料の作成においては、医療情報だけでなく、障害特性に応じた生活感覚を反映した情報を付加する必要性があることが示唆された。これは処理流暢性の観点からみても同様の傾向を示しているものと考えられる。これらの点から、障害者向けに開発される資料は、処理流暢性の高いものであることが求められること、別の角度から見れば、障害者向けの資料から、新たな処理流暢性の要素が見いだされる可能性が示された。この点から、本研究が考える基本的仮説は立証されつつあり、順調に推移している。 また、AYA世代向けがん情報のハッシュタグ#利用が、人には聞きづらい情報の検索に使われていたことが明らかになったという点で、コンテンツへのアクセシビリティを高める工夫の必要性が示唆された。これは、研究計画における学術的な要素とは異なるが、社会実装を考えるうえで有用な観点であり、本研究の成果としても重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
1.「わかりやすい版」の処理流暢性の角度からの検討(「わかりやすさ」の数値化) 1年次の結果を踏まえ、知的障害のある患者の利用を想定して、作成した「わかりやすい版」資料3種(「肺がん」「大腸がん」「糖尿病」)について、市民・患者向けの一般的な医療情報のわかりやすさを評価するツールとして開発されたPEMATを応用し、PEMAT-Disability版(仮称)を開発し、測定する。 2.手話版発の資料が同じものになるかどうかの同定 本研究の代表者・分担者らが作成してきた手話資料は、日本語から翻訳する形で作成してきたが、文法が全く異なる日本語に対応させた日本手話での表現には、翻訳上の課題が多数あった(皆川他, 2022)。1年次に収集した糖尿病のろう患者のニーズで明らかになった「ろう者の生活感覚を反映した」手話発の資料を実際に作成し、作成された資料がどのような特徴をもつのかを明らかにする。 3.「体験談」と「情報」を組み合わせた資料の提示方法の有用性の検討 1年次に行ったアクセス解析の結果では、#ハッシュタグページからの離脱率は低く、目的の情報を見つけやすさに貢献している可能性は示唆された。しかし、この両者を行き来することで「わかりやすさ」を促進できているのかどうかは定かではない。「読みたい情報」として、自分で読んでもらうようにするうえで、ナラティブ情報と知識的情報をどのように配置することで効果がみられるのかについて、実験的にサイトの構造を調整し、より効果的な提示方法を明らかにする。
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