研究課題/領域番号 |
22H00946
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
藤原 葉子 お茶の水女子大学, 名誉教授 (50293105)
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研究分担者 |
市 育代 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (50403316)
石川 朋子 聖徳大学, 人間栄養学部, 教授 (70212850)
豊島 由香 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (70516070)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エストロゲン欠乏 / 肥満 / 骨粗鬆症 / インスリン / 必須脂肪酸欠乏 / 高脂肪食 |
研究実績の概要 |
閉経後の女性は肥満になりやすく、男性や若い女性と比較して血中コレステロールの増加や、II型糖尿病の発症、乳がんなどのリスクも高くなることが知られている。近年、男女間の生体内反応や薬物代謝の違いから、疾病治療においても女性は男性と同じ投薬や治療法では不適切であることが指摘されている一方で、食事指導に関する科学的根拠は十分ではない。栄養学における基礎研究の多くは雄のラットを用いて行われてきたため、「健康を維持するために、何をどのように食べればよいか」という基礎科学的な知見は、ライフステージによって変化する女性には適していない可能性がある。本研究では、閉経後女性の健康にとって重要な問題である肥満と骨粗鬆症について、女性が陥りがちな高脂肪・低タンパク質食、および必須脂肪酸欠乏が、骨や肥満に伴う作用とその機序を明らかにするため、卵巣摘出手術(OVX)を施したエストロゲン欠乏モデルを用いて検討する。 当該年度には、OVX処理を行ったWistar系野生型ラットの雌に、通常食あるいは高脂肪食を与えて飼育した後の脂肪と骨構造への影響を評価した。ラットにおいては骨代謝とインスリンシグナルの詳細は不明であるため、分担研究者の豊島が作成した2種類のインスリン受容体基質1(IRS-1)および2(IRS2-)欠損ラットを用いて骨に対する影響を調べた。さらに、多価不飽和脂肪酸代謝酵素であるΔ6不飽和化酵素(Fads2)を欠損したマウスにOVXを施し、閉経後の必須脂肪酸欠乏が肝臓や脂肪組織に与える影響について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型ラットを用いた高脂肪・低タンパク質食時のエストロゲン欠乏に対する骨の影響を調べる研究は、予定通り順調に終了した。摂取エネルギーが同等であっても、閉経後モデルでは、脂肪蓄積は変わらないにもかかわらず、血中脂質への低下と肝臓への脂質蓄積が認められ脂肪肝となることや、骨の微細構造にはほとんど差が見られないが、海綿骨の骨梁幅が小さくなる傾向や、骨代謝回転の上昇を示唆する血中マーカーの増加が認められるなど、悪影響があることが分かった。ここで用いたラットは、IRS-KOと同じ系統の野生型であり、当該年度の実験結果から、高脂肪・低タンパク質食摂取の基礎データが得られ、KOラットを使った際の実験条件や方法、や測定項目についても確認することができた。 一方、インスリンや必須脂肪酸は生命維持に重要なため、これらを欠損したラットやマウスの雌を、実験に用いるための統計的に意味のある個体数を確保することが難しかった。そのため、欠損動物を使った研究については、高脂肪食よる影響を見る前に、OVXと野生型やShamの比較を明確にすることを優先し、インスリンシグナルについては2種のIRS-KOについて雌雄差も含め通常食飼育で確認することとした。初年度は各群の個体数が少ないが、野生型、雌雄の違いについて、血中マーカーその他各種測定項目に加えて、骨構造の解析までを行うことができた。 必須脂肪酸欠乏では肝臓の脂肪蓄積が増加することが知られているが、モデルであるFads2-KOマウスにOVXを施すことにより、肝臓の脂肪蓄積が顕著になり、非アルコール性脂肪肝(NASH)の進展していることが分かった。さらに、褐色脂肪組織ではOVXによってUCP1発現が減少していた。 X線CTスキャン装置の不調による骨解析の遅れや、KOラットの個体数維持の問題が生じたが、全体の研究計画においてはおおむね順調に進められた。
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今後の研究の推進方策 |
野生型ラットの実験については、初年度はOVXのみで行った。IRS-KOラットの実験と比較するために、再度、高脂肪・低タンパク質食による雌雄差とエストロゲンの有無を、食事摂取量や体重、性周期を考慮して詳細に行う。ラットは15週齢のWistar系の雄、雌にOVXあるいはshamを施した3群を高脂肪・低タンパク質食で10週間飼育する。飼育中は摂食量、体重を測定する。各臓器と血液、大腿骨を採取し、血中脂質の他、アルカリフォスファターゼ、オステオカルシン、インスリン濃度などを測定し、大腿骨骨端の骨密度と海綿骨構造をX線マイクロCTスキャンで測定する。 IRS-2KOラットは、雌雄のIRS-2ヘテロ接合体ラットを掛け合わせて、雌性WT及びIRS-2のOVXとShamを施す実験に必要な個体数確保する。肥満や骨代謝とIRS-2によるインスリンシグナルとの関係を明らかにするために、まずは通常食での雌雄差やOVXとの比較を優先することとする。15週齢の雌性WT及びKOラットにOVXおよびShamを行い、通常食で10週間飼育し、Wistarラットと同様項目の測定を行う。高脂肪・低タンパク質食の影響は次年度以降に行う。 必須脂肪酸欠乏モデルであるFads2欠損マウスでは、当該年度に得られた肝臓や褐色脂肪組織での表現型変化に対する分子メカニズムの解明を目指す、さらにこの現象がOVXマウスに特異的な現象なのかを、雄マウスについても検討する。
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