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2023 年度 実績報告書

乳児の「探索する手」を起点とする発達カスケードの実証的理解

研究課題

研究課題/領域番号 22H00988
配分区分補助金
研究機関神戸大学

研究代表者

野中 哲士  神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (20520133)

研究分担者 山崎 寛恵  東京学芸大学, 教育学部, 特任准教授(Ⅰ種) (40718938)
西尾 千尋  甲南大学, 文学部, 講師 (50879939)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード発達カスケード / アフォーダンス / 探索 / 操作 / 身体性 / 環境 / エージェンシー / 発達システム
研究実績の概要

生物個体の一生という時間スケールで,個体のふるまいの変化を何がもたらすのかという問題は発達心理学の根幹をなす問いである。しかし,生物個体のふるまいの変化は,ひとつの原因がひとつの結果を引き起こすという単線的な因果関係にはあてはまらないことが多く,その理解はしばしば,変化をとらえる思考の枠組み自体を問い直す困難な作業を要求する。個体が示すふるまいの特徴や変化が,一見直接関係のないように見える異なる方面の発達的変化に波及する現象は「発達カスケード(developmental cascades)」と呼ばれる。本研究課題は,乳児が環境を「探索する手」の自発的動作が起点となり,発達の諸相に影響が及ぶ「発達カスケード」現象の統合的な理解を目指すものである。本年度は昨年度に引き続き,乳児の日常場面の縦断的観察を行い,私たちの日常をとりかこむ独特の群生環境のなかで,乳児の「探索する手」を起点として動的に浮かび上がってくる様々な出来事と,それらの出来事がもたらす乳児の経験と発達的変化の機会の具体像の記述,検討を進めた。観察と分析を進めることと並行して,International Conference on Perception and Action (ICPA),International Conference on Embodied Cognitive Science (ECogS),日本発達心理学会,日本質的心理学会の大会シンポジウム,『臨床心理学』誌をはじめとする学術雑誌への論文寄稿,『発達心理学』誌における「発達カスケード」特集の企画・編集など,多方面に成果を公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は,研究課題を次の二つの方向に展開させた。第一の方向は,乳児の「探索する手の発達」をめぐる問題について,「探索する手の発達のまわりで起こっている日常経験の変化」をめぐる問題としてとらえなおすことで,乳児の発達について,発達のまわりの環境をふくみこんだシステムのダイナミクスとして検討する方向である。この第一の方向の主な成果としては,第35回日本発達心理学会における研究分担者企画によるラウンドテーブル「レイアウトから探る保育環境:園庭・保育室での遊び・運搬・片付けの視点から」,同じく第35回日本発達心理学会の大会企画シンポジウム「発達心理学者は発達にどうアプローチするのか」および第20回日本質的心理学会大会企画シンポジウム「制作論的転回? 同じ川は二度入れない、同じモノは二度作れない」における研究代表者による発達カスケードをめぐる理論的視座の話題提供,XXI International Conference on Perception and Action(ICPA 2023)における保育室環境の縦断観察研究の研究分担者による発表,学術雑誌『臨床心理学』誌上の「発達のプリズム」特集への乳児の「探索する手」を起点とする発達カスケードをめぐる論考の寄稿などが挙げられる。第二の方向は,異分野との連携である。第二の方向の主な成果としては,身体性認知科学の国際研究会であるInternational Conference on Embodied Cognitive Science (ECogS) 2023における,日常環境のなかで「自己」を知る機会をめぐる研究の発表,「日本ロボット学会誌」への発達をめぐる論考の寄稿などが挙げられる。これらの成果を通じて,探索する手が生み出すさまざまな経験と発達の結びつきをめぐる,学際的・国際的な研究交流を進めることができた。

今後の研究の推進方策

今後,この研究課題をさらに学際的な方向へと推し進め,意欲的に異分野との連携を行うことを計画している。短期的あるいは長期的に,生物個体のなんらかの経験やふるまいの発達的変化が,一見無関係に見える他の発達的変化に影響するという事実は,乳児研究以外の領域でも,これまで数多く報告されている。経験によって非線形的にふるまいが変化する現象は,生物学における表現型可塑性をめぐる問題とも関連が深く,分野を超えてブレークスルーを要する研究課題となっている。今後,ロボティクスや生物学の分野との連携を深めつつ,適応的行動の発現における探索と経験の役割について,多分野に開かれた議論を行っていく。2024年12月に刊行予定の,『発達心理学研究』誌上では,本研究課題の研究代表者および研究分担者による企画で「発達カスケード」の特集号を編集しており,ロボット工学,脳科学など領域を越えた研究者に寄稿を依頼しており,学問領域を越えた学際的な議論の舞台を設けることを企図している。私たち生物個体が生を開始してから,やがて死にいたるまでの変化の道程は,私たちの日常をとりかこむ独特の環境の構造や,その中で日々繰り返されているあたりまえの出来事と切り結ぶなかで,その場で動的に浮かび上がってくるものである。生物個体の発達のこうした側面に焦点をあてるとき,発達の研究は,発達を起こす「筋書き」の研究ではなく,発達という時間スケールにおいて,生物個体と環境が出会うなかで動的に浮かび上がる「移ろいそのもの」の研究となる。と同時に,発達の研究は「発達が起こっているところ」の研究を広く包含する営みとならざるを得ないだろう。このような考えから,今後,本研究課題では,手の具体的な日常の所作をとりあげて,その変化が現れるところの日常環境に焦点をあてた観察および分析をさらに行っていく予定である。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Cultural attraction in pottery practice: Group-specific shape transformations by potters from three communities2024

    • 著者名/発表者名
      Nonaka Tetsushi、Gandon Enora、Endler John A、Coyle Thelma、Bootsma Reinoud J
    • 雑誌名

      PNAS Nexus

      巻: 3 ページ: pgae055

    • DOI

      10.1093/pnasnexus/pgae055

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 手の所作の発達―その環境と経験2023

    • 著者名/発表者名
      野中哲士
    • 雑誌名

      臨床心理学

      巻: 23 ページ: 501-506

  • [雑誌論文] An Ecological Approach to Intelligence2023

    • 著者名/発表者名
      Nonaka Tetsushi
    • 雑誌名

      Journal of the Robotics Society of Japan

      巻: 41 ページ: 618~624

    • DOI

      10.7210/jrsj.41.618

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Two notions of medium and their implications for intelligence2023

    • 著者名/発表者名
      Nonaka Tetsushi
    • 雑誌名

      IOP Conference Series: Materials Science and Engineering

      巻: 1292 ページ: 012022~012022

    • DOI

      10.1088/1757-899X/1292/1/012022

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 発達心理学者は発達にどうアプローチするのか2024

    • 著者名/発表者名
      柳岡開地,畑野快,平井真洋,野中哲士
    • 学会等名
      日本発達心理学会第35回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] レイアウトから探る保育環境:園庭・保育室での遊び・運搬・片付けの視点から2024

    • 著者名/発表者名
      山崎寛恵, 炭谷将史, 西尾千尋, 平野麻衣子, 山本 一成
    • 学会等名
      日本発達心理学会第35回大会
  • [学会発表] 保育園の0歳児クラスにおいて歌やリズムが果たす機能2024

    • 著者名/発表者名
      朝比奈茉穂, 野中哲士
    • 学会等名
      日本発達心理学会第35回大会
  • [学会発表] 乳児が物に触れることに付随して起こる保育士の関わり2024

    • 著者名/発表者名
      青井郁美, 野中哲士
    • 学会等名
      日本発達心理学会第35回大会
  • [学会発表] 制作論的転回? 同じ川は二度入れない、同じモノは二度作れない2023

    • 著者名/発表者名
      野中哲士
    • 学会等名
      日本質的心理学会第20回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Longitudinal observation of the arrangement of a nursery room2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroe Yamazaki, Hikaru Nozawa, Chihiro Nishio
    • 学会等名
      XXI International Conference on Perception and Action (ICPA 2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Structure of variability in scanning movement involved in Braille Reading2023

    • 著者名/発表者名
      Tetsushi Nonaka, Kiyohide Ito, Thomas A. Stoffregen
    • 学会等名
      XXI International Conference on Perception and Action (ICPA 2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Development of self in a populated environment2023

    • 著者名/発表者名
      Tetsushi Nonaka
    • 学会等名
      International Conference on Embodied Cognitive Science (ECogS) 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] 保育士が利用するモノの価値-入園直後の0歳児クラスの観察における検討2023

    • 著者名/発表者名
      青井郁美, 野中哲士
    • 学会等名
      日本赤ちゃん学会第23回大会
  • [学会発表] 保育園の0歳児クラスにおける歌やリズムの果たす機能2023

    • 著者名/発表者名
      朝比奈茉穂, 野中哲士
    • 学会等名
      日本質的心理学会第20回大会

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公開日: 2024-12-25  

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