研究課題/領域番号 |
22H01072
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大沼 進 北海道大学, 文学研究院, 教授 (80301860)
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研究分担者 |
有馬 淑子 京都先端科学大学, 人文学部, 教授 (40175998)
中澤 高師 東洋大学, 社会学部, 教授 (50723433)
辰巳 智行 豊橋創造大学短期大学部, その他部局等, 講師 (40907911)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 共通善 / 多元的公正 / マキシミン原理 / 集団討議 / 除去土壌福島県外最終処分 |
研究実績の概要 |
本研究の射程は、ときに両立困難な社会全体の望ましさを巡る価値の葛藤を取り上げ、二項対立図式を乗り越えた共通善を目指した合意形成の道筋を探求することにある。本研究は、複数の価値の系が容易には両立しにくい問題として福島の除去土壌県外最終処分問題を題材として取り上げ、複合的な共通善に目を向けた議論を可能とする決定枠組みの要件を解明することを目的とする。 R5年度は、第一に、複数の集団討議実験を実施した。最不利者情報を操作した結果、最不遇者情報がない客観的・中立的情報だけでは功利主義的な議論と決定になりやすいこと、マキシミン原理的な決定になるには最不遇者の情報提供が必要であることが示された。この成果は2本の査読付学術誌に掲載された。さらに、議論フレームを操作した集団討議実験も実施した。賛否二分法的な係争的なフレームでは共通善の多元的な価値が反映されにくく、包摂手なフレームでは反映されやすい可能性が示唆された。一方で、集団の結論に集団内の意見平均がシフトする集団極化現象はロバストに見られた。この成果は2本の査読付学術誌に掲載決定となった。 第二に、除去土壌の県外最終処分を巡り、意思決定に関与する主体や、価値や利害の異なる様々な市民や住民などのステークホルダーが相互作用する場面を織り込んだゲーミングを開発した。ここでは、多段階のステークホルダー-公衆関与による決定プロセスを設定した。その結果、ステークホルダープロセスにおける役割にコミットし視点取得できるかが、公衆による決定場面で良質な合意案に関連する可能性を見出した。 加えて、前年度に開発した討議の質指標(DQI)をミニ・パブリックス型討議イベントにも適用し、様々な事例において評価を試みている。また、集合知がベストメンバーより優れた判断ができるかという古典的な問いに対して、機械学習では必ずしもうまくいかない場合があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に計画していた集団討議実験の一つは既に査読付学術誌に掲載され、さらその次に実施する計画だった実験についても、初期の成果が査読付学術誌に掲載決定となった。さらに、もう一本の論文も執筆準備中である。これは当初計画より一年前倒しで進んでいる。加えて、ゲーミングの開発も当初計画より速いペースで作成されており、試作版以上の作り込みを終えており、この成果も既に投稿準備ができており、当初計画より前倒しで進捗している。以上のように、全体的に、当初計画よりもやや速いペースで成果をリリースしている。なお、本研究の成果を発表した本研究チームの大学院生が、日本リスク学会大会優秀発表賞(口頭発表部門)を受賞しており、その研究内容が高く評価されている。さらに、同大学院生は、本科研費で開発した討議の質指標(DQI)について、ミニ・パブリックスフォーラムにて招待されて講演を行った。これも、本科研費の成果が広く注目を集めていることの証左である。
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今後の研究の推進方策 |
集団討議実験をさらに深化させる。議論フレームを操作した実験では、初期多数派に集団内平均がシフトする集団極化現象がロバストに観察された。しかし、単に多数意見に流されたのか、熟慮によりよいと思って変化したのかは特定できていない。今後は、この点を明らかにする。二者択一的な係争的な条件では必ずしもよいと思っていなくても多数に同調したものとなり、様々な立場を包摂する議論フレームではよいと思って意見を変化したという質的な違いが見られると予測される。以上の点を確認する。 また、開発した除去土壌ゲーミングをより洗練化させ、実際の政策決定者や実務者の意見をふまえてステークホルダープロセスによる交渉過程と市民パネルプロセスの接続をより深く考察できるようにデザインする。さらに、討議の質指標(DQI)をさらに様々なミニ・パブリックスなどの討議イベントの事例に適用し、その汎用性を高める。 もって、引き続き、共通善を巡る諸価値の系から合意形成プロセスを評価できるパラダイムの確立を目指す。
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