研究実績の概要 |
睡眠後に、運動技能や見え方が向上することが報告され、単一の学習における睡眠の役割については代表者の研究を含めて顕著な成果が挙げられている(Tamaki et al., 2019, J. Vis)。一方で、ある課題における学習が異なる課題の学習を促進する学習の転移という現象が知られている。例えば、運動技能の学習が、単語の順序に関する記憶を促進することが報告されている(Mosha et al., 2016)。学習の転移は私たちが新しい場面・状況に対して適応的に生きていく上で必要不可欠な機能であるにも関わらず、そのメカニズムは全く分かっていない。学習の転移において睡眠時の脳活動が重要な役割を果たす可能性がある。代表者は、ノンレム睡眠時に脳の可塑性(変化のしやすさ)が上がり、レム睡眠時に複数の脳領域間の結合性(機能的な結びつき)が高まることを提案した(Tamaki et al., 2020, Nat. Neurosci.; Tamaki et al., 2020, PNAS)。睡眠中に特有のこれらのプロセスが学習の転移において役割を果たす可能性がある。本提案研究では、ヒトの睡眠中の脳の可塑性変動を詳細に捉えることで、学習の転移における睡眠の役割とその神経基盤を解明することを目的とする。 今年度は主に睡眠ポリグラフと行動実験を実施し、学習の転移においてノンレム・レム睡眠の両方が必要であるかを検討した。学習課題としては、視覚記憶課題(視覚課題)と運動学習課題(運動課題)を用いた。視覚課題と運動課題の訓練の間に、高次の共通ルールを設け、睡眠後のパフォーマンスの変化を検討した。その結果、異なる課題間で高次の共通のルールが存在している際に、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方が睡眠に含まれている場合にのみ、運動技能課題は飛躍的に向上することがわかった。
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