研究課題/領域番号 |
22H01150
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
津田 健治 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 教授 (00241274)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 収束電子回折 / ナノ電子プローブ / マルテンサイト相転移 / 局所結晶構造解析 / 格子歪マッピング |
研究実績の概要 |
Ti-Ni-Fe合金に対して室温でのSTEM-CBED実験を行った。Ti-Ni-Fe合金系は、低温でマルテンサイト相転移を示す典型例の一つであり、室温の立方晶から温度を下げると低温のR相へとマルテンサイト相転移を起こす。STEM-CBED法で1nm程度の局所領域を選択してCBEDデータ取得を行い、室温の立方晶相においても低温R相に対応するナノスケールの局所構造変化が観察されることを見出した。これに対応する局所原子変位モデルを用いて、散漫散乱に対応する超格子反射強度のシミュレーションを行った。 また、マルテンサイト相転移で現れるナノスケールの不均一ドメイン構造から、CBED図形の定量的な強度分布を計算するため、我々の開発してきたCBEDシミュレーションコードMBFITに、コヒーレントナノ電子プローブと3次元ナノドメイン構造を含む超格子構造モデルを取り扱う機能を実装した。この場合、元の単位胞の基本反射に加えて多数の超格子反射が現れるが、これらがコヒーレントに干渉する条件で動力学回折(多重散乱)強度計算を行う。この方法では、異なるプローブ位置および異なる試料厚さに対する計算は、ブロッホ波計算における境界条件のみの変更となり、計算コストが小さく済む利点がある。これは、試料上の多数の点からCBED図形を得るSTEM-CBED法の解析に有利である。一方で、大きな超格子を扱うため、ブロッホ波計算で対角化する行列の次数が増加して計算時間が増大するが、MPIによる並列計算およびPCクラスター計算機の利用により大幅な計算時間短縮に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナノメータースケールで局所構造の空間変化・分布を調べることができるSTEM-CBED法を適用することで、Ti-Fe-Ni合金のナノドメイン分布が直接観測可能であることを示した。また、われわれの開発しているCBEDシミュレーションコードMBFITに、コヒーレントナノ電子プローブを用いる超格子構造モデルを取り扱う新しい機能を実装することに成功し、不均一なナノドメイン構造からも、ナノ電子プローブの照射領域を考慮した正確な計算が可能となった。マルテンサイト相転移に伴う3次元的なナノドメイン構造の解析が期待できる。 一方で、二軸傾斜ペルチェ冷却トランスファー試料ホルダーの重要な要素である冷媒が、PFAS問題のため入手困難な状況となっており、試料ホルダーの納入が年度末となったため、この試料ホルダーを用いた冷却STEM-CBED実験が次年度にずれ込んだ。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に導入した二軸傾斜ペルチェ冷却トランスファー試料ホルダーを用いて、ナノ電子プローブを試料上で走査する間の試料の位置ドリフトをサブナノメーター以下に抑制するための温度環境、駆動環境等の最適化を行い、Ti-Ni-Fe合金に適用する。種々の試料温度、特にプレマルテンサイト領域のナノドメインの局所構造解析に取り組む。また、われわれのCBEDシミュレーションコードMBFITの開発をさらに推し進め、コヒーレントナノ電子プローブを用いた3次元ナノドメイン構造からのCBED強度計算と、TEM-CBED実験データとの定量比較を行うための機能を実装する。また、Ti-Ni-Cu合金およびNi2MnGa合金におけるマルテンサイト相転移の局所構造解析に着手する。
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