研究実績の概要 |
本年度は開放量子系で生じることが期待されるYant-Lee量子臨界現象に関する研究を行い、それを論文にまとめた (N. Matsumoto, et al., Phys. Rev. Research 4, 033250 (2022))。YangとLeeは相転移における熱力学量の特異性の起源が分配関数のゼロ点の分布を調べることによって数学的に理解できることを洞察した。しかし、温度や相互作用定数が実数である限りは分配関数は正確定であるために、Yang-Lee zero は数学的な概念であると考えられてきた。しかし、近年、実験的解釈の可能性に関する研究も盛んになりつつある。我々は、Yang-Leeのedge singularity が量子―古典対応を用いることで量子系で実現できることを明らかにした。具体的には、元の古典系をアンシラ付きの量子系に埋め込み、アンシラを量子測定することで測定結果に依存した形の条件付き期待値を計算することで、元の臨界現象が再現できることを示した。機械学習を量子制御へ応用する研究に関しては、微粒子のモデルである剛体を強化学習を量子測定およびフィードバックと組み合わせることによりレーザー冷却する方法の研究を行った。剛体は探索領域も広く、数値的に安定に冷却することが困難であったが、初期パラメータ領域をある程度絞ることによって冷却が可能であることが分かった。孤立量子系の熱化の研究については、昨年度に引き続き長距離相互作用が存在する場合に固有状態熱化仮説が成立することを数値的に示し、論文で公表した (S. Sugimoto, et al., Phys. Rev. Lett. 129, 030602 (2022))。
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