研究課題/領域番号 |
22H01156
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中 暢子 京都大学, 理学研究科, 教授 (10292830)
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研究分担者 |
秋元 郁子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00314055)
松岡 秀人 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (90414002)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | リドベルグ状態 / 量子技術 / 励起子 |
研究実績の概要 |
研究計画の第二年度は引き続き、励起子リドベルグ状態を用いるマイクロ波-光結合の実験研究を進めた。循環型ヘリウムガス冷凍機を用いて数Kまで冷却した試料へのマイクロ波照射を可能とするために、マイクロ波アンテナ近傍への試料の設置方法について具体的な検討を行い、必要な部品を選定、購入した。半導体Cu2Oのリドベルグ励起子の奇パリティ状態(P軌道)の観測は信号処理方法に改良を加えた結果、主量子数が14の高次状態までが観測され、今後の実験に適する薄膜試料を確保することができた。 これと並行して、リドベルグ励起子の空間拡散の制御法として考えられる歪み格子に関連する研究も行った。ダイヤモンド結晶中の励起子発光の空間特性を詳細に調べた結果、結晶中の線欠陥がキャリアや励起子の捕獲中心として働いている可能性が見出された。線欠陥の周りでの歪みの空間分布は解析的な式が知られていることから、これをダイヤモンドの場合に適用してバンドギャップの空間変調を計算した。さらにバンドギャップの変調により励起子にもたらされるポテンシャル勾配力を評価し、線欠陥の周りでの捕獲現象を拡散移流方程式によってモデル化した。この成果について論文を執筆中である。一方、ダイヤモンドの一光子吸収過程を通してリドベルグ状態を直接に初観測するために、ダイヤモンドの自立薄膜を入手した。試料は非常に壊れやすいため、歪みをかけずに試料ホルダに設置すべく、レーザー加工によるスペーサーとマスク、特別に設計した試料ホルダの作製を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に半導体Cu2O新規試料の評価を予定通り行いマイクロ波照射実験を本格化する準備が整った。ダイヤモンドにおける励起子ライマン遷移の寄与やリドベルグ系列を決定する励起子イオン化エネルギーの新しい評価方法を検討した。 第二年度には、Cu2Oのリドベルグ励起子の奇パリティ状態(P軌道)の観測において主量子数14の高次状態まで到達し、今後の実験に適する薄膜試料を確保することができた。また、ダイヤモンドの微細構造におけるスピン軌道相互作用分裂の大きさを決定できた。これはリドベルグ準位構造の同定において重要な知見であり、論文出版と同時にプレスリリースを行うなど当初予想していなかった大きな進展があった。また、ダイヤモンドでのリドベルグ状態の直接観測を狙う自立薄膜での光学実験の目処がたった。 この二年間で、固体リドベルグ状態に関する注目論文の紹介記事の出版、応用物理誌での解説記事の出版、論文発表、国内外での学会発表などの成果発信を精力的に行った。 以上の状況から、現在までに各研究項目で計画は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は高周波マイクロ波信号発生器を本格稼働し、マイクロ波結合によるスペクトル変調の実験と解析を進める。奇パリティのリドベルグ状態をプローブするための吸収スペクトルに現れる干渉縞の除去方法については引き続き実験、解析の両面から検討を進め、研究の次段階を見据えてさらに高次のリドベルグ状態の観測も試みる。マイクロ波照射実験では試料の損傷も起こり得るため、実験に適する厚さの複数の薄膜試料の作製を別途進める。 Cu2O以外での固体リドベルグ状態についても探索を進める。具体的には、これまではテラヘルツ波を用いて励起子ライマン遷移としてのみ観測されているダイヤモンド中のリドベルグ状態を、吸収分光により基底(1s)状態を介さずに直接観測することを目指す。このために、ダイヤモンド自立薄膜を低温に冷却して高分解能測定に用い、微細構造や緩和過程に関する詳細な理解を進める。また、リドベルグ励起子の空間拡散の制御法として考えられる歪み格子に関連して、合成ダイヤモンド中に生じる線欠陥の周りでの励起子捕獲現象をモデル化する拡散移流方程式の理解をさらに進め、ポテンシャル変調による励起子トラップの検討を進める。このポテンシャル変調には伝導帯のバレー自由度も関係するため、キャリアと励起子の輸送定数の異方性についての理論的な検証も合わせて行う。 以上の研究により得られる成果について国内外で学会発表を行うとともに論文執筆、投稿を行う。
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備考 |
論文出版に関して日本語、英語でのプレスリリースを行なった。
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