研究課題/領域番号 |
22H01168
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
前野 悦輝 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (80181600)
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研究分担者 |
米澤 進吾 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30523584)
石田 憲二 京都大学, 理学研究科, 教授 (90243196)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ルテニウム酸化物 / 非従来型超伝導 / Sr2RuO4 / カー効果 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
層状ルテニウム酸化物Sr2RuO4の超伝導が、これまでの分類での「非従来型」を超える枠組みである、「異なる原子軌道間の電子対形成」による可能性を判定・検証するための研究を進めた。 ●1.リフシッツ転移に伴う超伝導状態の変化:一軸性圧力を印加し、リフシッツ転移に対応する超伝導転移温度の増大と減少を観測した。超伝導対称性の決定的な情報を引き出すために、上部臨界磁場の面内異方性の変化を磁化率の測定から詳しく調べ始めた。 ●2.時間反転対称性破れ(TRSB)による超伝導2段転移の検証: ミュオンスピン回転の実験を新たに[110]一軸圧印加でも行い、2段転移を観測して論文発表した。2段転移をミュオン以外の手段で検証するため、NMR磁気緩和率1/T1の温度変化から、超伝導ギャップ構造の変化を敏感に検出する実験の準備を進めた。また、TRSBを直接検出する磁気光学カー効果(MOKE)の測定について、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のグループにSr2RuO4とRu金属の共晶試料を送って共同研究を進めた。なお、京都大学でも低温までのKerr効果測定装置が稼働するようになり、一軸圧実験に取り組む準備ができた。さらに、準粒子トンネル効果により、TRSB相でのみ発生するゼロバイアス・コンダクタンスピークを柏谷(研究協力者)らと調べる実験準備を進めた。 ●3.NMRによる超伝導状態の判別: NMRナイトシフトから、新たな枠組みのスピン三重項・軌道間一重項の「擬スピン一重項」と、従来の「スピン一重項」d波との実験的判別に向けて、常圧でのNMRナイトシフトのデータ収集を進めた。これに関連して、上部臨界磁場付近でナイトシフトが分裂することを観測し、「スメクティック液晶のような空間並進対称性を破った超伝導」であるFFLO状態を発見して執筆を進めていた論文が、2022年4月にScienceに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で設定した3つのアプローチ、●1.リフシッツ転移に伴う超伝導状態の変化;●2.時間反転対称性破れ(TRSB)による超伝導2段転移の検証;●3.NMRによる超伝導状態の判別、のそれぞれで研究を進めた。 1では、京都大学での実験が順調に進展しており、一軸圧印加実験の結果についても日本物理学会で発表した。2では、国際共同研究でミュオン実験に新たな進展が見られて論文発表した。また、圧力下でのNMR実験も関連の超伝導体で成果が上がり、今後の取り組みの準備ができた。3では、2022年4月にサイエンスに論文掲載した成果について、研究を深めている。これらのアプローチでの進捗をもとに、低温物理学国際会議(LT29)をはじめ、いくつかの国際会議での成果発表も行った。
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今後の研究の推進方策 |
●1.一軸圧で誘起されるフェルミ面再構築に伴う超伝導状態の変化: 一軸性圧力印加のもとでの上部臨界磁場の面内異方性の変化を電気抵抗と磁化率の測定から詳しく調べ、リフシッツ転移での超伝導状態の変化を明らかにする。測定結果を京都大学やスイス連邦工科大の理論と合わせて吟味し、フェルミ面再構築にともなう非自明な超伝導現象から、超伝導対称性に関する決定的な情報を引き出す。◆2023年度は、工学研究科に異動した米澤(分担者)の研究室に希釈冷凍機等を移設してデータ収集を進める。 ●2.時間反転対称性破れ(TRSB)による超伝導2段転移の検証: 一軸性圧力印加でのミュオンスピン回転の実験で明らかになった、超伝導転移より低温でのTRSB相への転移を複数の方法で検証する。まず一軸圧下でのNMR磁気緩和率1/T1の温度変化から、超伝導ギャップ構造の変化を敏感に検出する。これにはゼロ磁場下でのRuの核四重極共鳴(NQR) を用いる。また、TRSBを直接検出する磁気光学カー効果(MOKE)の測定を進める。さらに、準粒子トンネル効果により、TRSBに伴って発生するゼロバイアス・コンダクタンスピークの一軸圧下での変化を柏谷(研究協力者)らと調べる。◆2023年度は、Ru金属の析出した3-K共晶結晶での常圧での内部一軸歪による超伝導2段転移の有無を明らかにするための走査型MOKE装置を完成させる。また純良結晶でのそれぞれの一軸圧実験に適したピエゾ素子装置と測定系を稼働させる。 ●3.NMRによる超伝導状態の判別: 引き続きNMRナイトシフトの温度変化の磁場方向依存性から、新たな枠組みのスピン三重項・軌道間一重項の「擬スピン一重項」と、伝統的な非従来型超伝導状態の「スピン一重項」との実験的判別を狙う。名古屋大学の田仲(研究協力者)らによるスピン磁化率の理論と比較して研究を進める。
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