研究課題/領域番号 |
22H01169
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 豊 京都大学, 理学研究科, 教授 (60205870)
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研究分担者 |
松原 明 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00229519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 超流動ヘリウム3 / カイラルドメイン / テクスチャー / MRI |
研究実績の概要 |
ギャップの狭い平行平板セルに閉じ込めたカイラル超流動ヘリウム3A相は、カイラリティがマクロに揃ったテクスチャーを基底状態として保有するが、実験的に実現される状態は、カイラリティが平板の法線方向あるいはその逆方向にマクロにそろったカイラルドメインがドメインウォールを挟んで隣接する、カイラルドメイン構造を自発的に取ることが多い。複数のドメインウォールが隣接するとき、ウォールの面積を最小とするため、お互いに平行となることが期待されるが、世界唯一の超低温MRI撮影装置で撮影された配置は、必ずしも平行とはならず、1本毎に逆の方向に傾いたハの字あるいは逆ハの字パターンを描いて配置されることもあった。 このハの字配置の成因がウォールを横切って流れるスーパーカレントの影響によるものであることを、ウォールを横切るスーパーカレントを禁止する形状の平行平板セルを用いて確認した。スーパーカレントとドメインウォールの相互作用を検証する中で、ウォールを横断するスーパーカレントの向きとハの字または逆ハの字の形状を定めれば、その2本のウォールの間のドメインのカイラリティーを向きを含めて決定できることを発見した。また同セルにおいては、超流動ヘリウム3の接するセル内壁の表面精度を高めて制作しており、そのことによって、ドメインウォールの位置・形状がセル表面の凹凸によるピン留位置に支配されて定まっている可能性を排除した。この成果は低温物理学国際会議LT29の数少ない口頭講演として報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平行平板セルを用いて超流動ヘリウム3のカイラルドメイン構造と流れの関係についての研究成果をあげ報告したことは概要欄に記述した通りである。 これとは並行して、スーパーカレントと超流動体の相互作用を検証するため、制御のできない自発的な流れを利用するのみならず、流れの向き速さを制御して与えるために、本邦唯一の現役稼働する回転核断熱消磁冷凍機を整備増強する作業を進めてきた。当該設備には、冷凍機の根幹部分より真空漏れを自然発生していたが、研究室の総力を挙げて対策を行い、22年度末にようやく、回転冷凍機としての機能をフルに回復するに至った。エアベアリング上でスムーズに回転する希釈冷凍機の最低温度は10mKを安定保持することができている。また、回転力を与えるためのモーター駆動機構から漏洩したノイズ電流により、希釈冷凍機の温度が上昇するトラブルが以前の試運転ではみられていたが、今回その原因を明らかにし対策をすることで、回転速度を変化させても影響は見られなくなった。並行して、核断熱消磁冷凍段の大幅な改造計画を検討し、基本設計を完了した。静止下での核断熱消磁冷凍段と異なり、回転に伴う振動磁場による熱発生に対処するため、冷凍段の根幹をなす核ステージには、冷凍力と発熱のバランスに留意した特殊な加工を施す必要がある。これらの設計を終えて、制作に取り掛かる段階である。 また、それとは別に、細い円筒形容器に閉じ込めた超流動ヘリウム3を対象に、磁気共鳴分光映像法(MRSI)によるテクスチャーの決定や多重パルス励起によるスピンマーク法を用いた流れの検出法の開発実験を行うため、別の大型核断熱消磁冷凍機に円筒型容器セルを取り付けて、冷却しようとしたところ、当該冷凍機にも休止中に深刻な真空漏れが自然発生していた。幸いなことに原因を特定することができ、2023年度春に修理完了して、テスト運転を再開する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
相転移による秩序構造発生時に自然に発生したスーパーカレントを利用して、カイラルドメイン構造の理解がさらに深まったが、今後はそれに加えて、低温で稼働する機械構造を利用した流れ発生システムを付加することで、スーパーカレントとドメインウォールの相互作用についての理解をさらに確かなものにする。また、究極のNMR測定ともいえるMRSI測定の豊富な情報量を元に、各ドメインやドメインウォールのより詳細な理解を進める。これらと並行して、回転断熱消磁冷凍機の改造を進め、超低温でのMRI/MRSI測定を回転下の超流動ヘリウム3に適用できるようにする。さらに、これらと並行して、大型核断熱消磁冷凍機に取り付けた、直径1ミリの円筒形容器に閉じ込めた超流動ヘリウム3を対象に、磁気共鳴分光映像法(MRSI)によるテクスチャーの決定や、多重パルス励起によるスピンマーク法を用いた流れの検出法の開発実験を行う。多重パルス励起によるスピンマーク法としてはダンテパルスによる格子模様の生成が有名であり、常流動相におけるテスト実験ではその生成に成功しているが、スピン動力学が非線形である超流動相での実施テストは今回初めて行うことになる。スピンにつけた印の時間発展を追うことができるようになれば流れを可視化できることになる。また、これらの測定手段と連携してセル形状にあわせた境界条件でのテクスチャー計算を精密に行うための計算環境の整備を行う。従来用いてきたものより高速大容量な環境を用いて、より現実に近い状況でのテクスチャー計算を行えるようにする。
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