研究課題/領域番号 |
22H01173
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
宇治 進也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, NIMS特別研究員 (80344430)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 / 磁気トルク / ノードライン型半金属 |
研究実績の概要 |
トポロジカル電子相は、物性物理学において最も盛んに研究されているテーマの一つである。エネルギーバンド構造にバンドクロス点を持つワイル半金属やディラック半金属では、フェルミアーク状態と呼ばれるトポロジカルに保護された表面状態がその結晶表面に形成される。 一方、新しいタイプのトポロジカル半金属相である、閉じたループや開いた曲線のバンドクロス点を持つノードライン型ワイルまたはディラック半金属では、その特異なバンド構造に由来する新規物性が期待されている。 一連のトポロジカル物質の中で、金属β相ReO2はディラック点がループ鎖を形成するディラック・ノード線を持つことが知られている。この物質は低温で巨大な正の磁気抵抗を示すことが先行研究から明らかとなっているが、その起源は明らかではない。そこで、ReO2の電子状態をより詳細に調べるために磁気トルク測定を行った。 全温度領域においてトルクの磁場方位角依存性は2回対称の正弦波が観測される。トルクカーブの振幅は磁場とともに二次関数的に増加する。これは従来のパウリ常磁性的な振る舞いである。温度が下がると振幅は急峻に増加し、特に高磁場において非線形磁化が顕著になる。ランダウ理論に基づく解析から、トルク信号の変化は電気四重極揺らぎであることを明らかにした。さらに四極子揺らぎによる帯磁率の異方性は、0Kと0Tに向かって量子臨界的振る舞いであるかのように強く増大することを見出した。本結果は、ReO2の電子状態が量子臨界点近傍にあり、外部磁場に対して敏感に応答する電子状態が形成されていること、そしてこれが巨大な正の磁気抵抗の起源になっていると結論できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な電子系において、熱揺らぎが抑制される低温で電子構造の対称性が低下する相転移が起こる。本研究ではそのような相転移を磁気トルク測定手法により詳細に調べ、相転移メカニズム解明や、秩序変数の同定などに寄与することを目的としている。 研究開始年度において、装置系のトラブルにより超伝導マグネットを用いた磁気トルク実験時間が制限された。トラブル解決後は実験が順調に進み、ディラックループを持つ典型的なトポロジカル物質として知られているβ相ReO2の磁気トルク測定を詳細に行い、低温領域で電気四極子秩序が増大することを発見した。また、ノーダルライン半金属であるNaAlSiにおいて、1つの単結晶で磁気トルク測定を行っており、成果が出つつある。以上の一連の成果から、本研究は順調に研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ノーダルライン半金属であるNaAlSiは、空間群P4/nmmの正方晶構造を持つ。Al原子が4個のSi原子と結合したAl-Si四面体が2次元的に配列した層を形成し、AlとSiのs,p軌道で伝導帯が形成されている。常圧で比較的高い転移温度Tc =7 Kを持ち、a軸方向で臨界磁場が大きな異方的な超伝導である。量子振動測定からは、電子とホールで形成される小さなフェルミ面しか存在しない。最近では、磁場中で抵抗が多段的に転移する様子も発見されている。バンド計算からはフェルミ準位近傍にディラック点があり、それが連続的に繋がったループ構造を持つ。さらに結晶の (001)面で特有の表面状態(ドラムヘッド状態)の存在が示唆されているが、その観測報告はない。本年は、この超伝導を詳細に調べるために、1つの単結晶で測定可能なマイクロキャンティレバー法による磁気トルク測定を行う。幅広い温度・磁場領域で、磁気トルクの磁場方位依存性を精密に計測することにより、トポロジカル物質特有の表面状態が形成されているか、それがバルクの超伝導状態とどのように関係しているのかを調べる。
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