研究課題/領域番号 |
22H01174
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野村 竜司 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00323783)
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研究分担者 |
青木 悠樹 群馬大学, 数理データ科学教育研究センター, 教授 (60514271)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超流動 / ヘリウム4 / 流体力学 / 量子液体 / 非平衡 |
研究実績の概要 |
超流動ヘリウム4を用いて落下する物体や液滴の運動を高速度カメラで可視化し、新奇な非平衡現象の探索を行うことが目的である。液滴の落下において、液滴の大振幅振動の影響で、液滴の落下周期に顕著な離散化(量子化)が起こるという予想外の現象を見出した。古典粘性流体ではカオスの影響で周期が不規則化することが知られており、水などを用いて詳しく調べられてきた。液体の流量が一定であっても、滴下周期が広く分布することが知られていた。これに対し、散逸のない超流動液滴の落下においては、カオスが抑制されるという予想外の振る舞いを発見した。これは容器底面に付着中に、液滴が大振幅で振動し、滴下周期を決定するためであると考えている。大振幅振動は粘性の無い超流動体でのみ可能な運動であるので、滴下周期の離散化は超流動体に固有の現象である可能性が高い。容器形状や温度などを変化させて、この液滴落下に対する量子効果の探求を系統的に行う。今のところ、超流動に関わる性質の中で何が本質的に重要かは分かっておらず、この点を明らかにすることが現象の理解に必要である。超流動液滴に固有の大振幅振動モードや新奇振動モードの詳細も調べる予定である。また任意形状の物体の落下を用いた超流動風洞実験を平行して行う。超流動液体中を落下する物体の運動を可視化することにより、超流動臨界速度を跨ぐ広い速度域に亘って、物体が受ける力を明らかにする。物体の形を反映した落下運動の多様性を探求する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超流動性が顕わに関わっていることが、一目見て分かるような新奇な流体現象というのはなかなかないものである。例えば超流動体が示す乱流状態は、古典乱流と同様の統計則に従うことが分かっている。量子渦の運動が支配する超流動体の流れであっても、十分大きな系の非平衡現象では、古典粘性流体と大きな違いがないことを示している。基礎方程式が全く違うにもかかわらず、似たような振る舞いをすることは非自明な結果であり、非常に興味深いが、超流動性が顕わには効いてこないという意味では若干残念な結果とも言える。温度勾配で駆動される噴水効果、容器から勝手に溢れ出す超流動液体、全く泡が出ない沸騰などは、超流動性が効いていることが一目瞭然の流体現象で、古くから興味を持たれてきた。見ただけ超流動体らしいと納得できる新たな現象が見つかれば、単純に面白く有意義であろう。容器の底に付着した超流動ヘリウム4液滴の振動は、減衰が無視できるほど小さく、かつ大振幅である。それがもたらすと考えられる液滴の滴下周期の離散化は、超流動性の直接の帰結である可能性が高く、興味深い新奇現象が発見できた可能性が高い。フィルムフローによって超流動ヘリウム4液体が容器から自然に溢れ出るという現象は、前述のように古くから知られているが、超流動液滴の滴下はそれとかかわりが大きい。液滴の滴下というような日常でも馴染みのあるの現象の中にも未解明の側面があるということが示されれば、大きな意義を持つと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平衡から大きく離れた流体の運動として、超流動ヘリウム4液滴の落下を高速度カメラを用いて調べる。実験は可視化が可能なガラスデュワーを用いて行う。液滴の生成方法としては、超流動フィルムフローを利用する。水滴の落下では見られない、液滴の大振幅振動という超流動体に特有の現象はすでに捉えている。この大振幅振動が落下周期の頑強な離散化(量子化)をもたらすことも分かっている。本年度は、これらの効果に対する容器形状や温度の影響を調べる予定である。容器の下部に円筒状の突起をつけて、液滴の接触線の運動に制限を与える。円筒のサイズを変えて、液滴の振動形状や落下周期の制御可能性を調べる。また円筒底面の形状を、曲率があるものと平らなものの2種類を用意して、振動や落下周期の比較を行う。平らな底面では、曲率のある場合には無かった並進対称性を液滴は獲得する。散逸の無い超流動液滴がこのような場合に、粘性流体と異なる振る舞いを示す可能性がある。ガラスデュワーを改良して高温度域での実験も行う。またデュワー上部に熱シールドを配して、熱流入を抑制し、ヒーターにより温度制御を行うことにより、高温を含めた幅広い温度域での実験を行う。液滴の振動形状と落下周期の量子化に対する温度効果を明らかにする。超流動液体中の落下物体の可視化も進める。ガラスデュワーを用いて、落下実験のための基礎技術開発を更に進める。また常流動体での実験を含む高温実験も行う。
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