研究課題
本研究では、超伝導クーパー対のスピンが揃った「スピン三重項超伝導」の強い候補物質であるUTe2において、高圧下での物性計測を20テスラ以上の強磁場、0.5ケルビンまでの極低温中で実現できる実験環境を構築する。これを用いてUTe2で発現する超伝導多重層の磁気異方性を解明し、さらには秩序変数を同定する議論に繋げる。今年度は主に試料空間の限られる20テスラ以上の強磁場マグネットにおいて、試料の三次元的角度回転を可能にする小型高圧セルおよび回転機構の開発、印加圧等の実験条件の調整を行う低磁場実験環境の構築を行なった。また、圧力セル中での熱測定に必要な抵抗温度計の選定など、実験に不可欠な要素技術の開発も並行して行なった。さらに、常圧下において約70テスラまでのパルス強磁場中での測定をドレスデン(ドイツ)の強磁場研究所のグループと共同研究として行った結果を考察し、35テスラ以上のメタ磁性転移以上のスピン偏極した電子状態で、磁場をb軸からc軸に約30度傾けた方位で出現する高磁場超伝導相近傍での輸送測定を行なった。その結果、スピン偏極超伝導状態の近傍で、ホール係数が著しく抑制されることを観測し、これは、スピン偏極超伝導の近傍で電子状態が大きく変調されていることを示唆する結果である。さらに、UTe2と関連性の深い結晶構造であるジグザグ構造を持つ反強磁性体の非相反抵抗測定を行い、反強磁性転移温度以下でゼロ磁場で自発的な非相反抵抗を観測した。この結果は、UTe2を含めた局所的に空間反転対称性の破れた金属における新規物性の理解を促すという点から有意な成果である。
2: おおむね順調に進展している
常圧下の測定において、メタ磁性転移以上のスピン偏極状態で出現する超伝導相近傍において、ホール効果の異常を観測したため。この結果はスピン偏極超伝導状態の起源となる電子状態の解明に大きく寄与すると考えられる。また、UTe2と関連の深い結晶構造を有するジグザグ反強磁性体において、ゼロ磁場における自発的非相反抵抗を観測した。この結果は局所的に空間反転対称性の破れた系における新規物性を理解する上で重要と考えられる。
初年度に開発した小型高圧セルの回転機構を用い、加圧下での超伝導多重相図の磁気異方性を解明する。また小型セル内での熱的物性測定技術の開発を進め、超伝導相内での相転移を含めた、多重超伝導相図を明らかにする。
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