研究課題
本研究の目的は、20テスラ以上の強磁場と二軸角度回転機構を組み合わせた「三次元ベクトル強磁場」を用いて、クーパー対のスピンが揃ったスピン三重項超伝導体候補物質の強磁場物性を研究することである。今年度は最近大幅に試料の純良化が進んだ高品質の単結晶試料を用いて、国内外の研究者と共同研究を行った。特に15テスラ以上の磁場を結晶のb軸に印加したときに出現する磁場誘起超伝導相において、その異方性と磁場温度相図を調べた。実験としては電気抵抗に加え、交流磁化率の測定を行った。その結果、超伝導相内において、電気抵抗がゼロであるにも関わらず交流磁化率に複数の異常が観測された。この結果は、超伝導相の内部での相転移の存在を示唆するものであり、この系の超伝導状態が確かにスピン三重項超伝導であることをより補強する結果である。また今回行った高周波を用いた交流磁化率測定は、極細の同軸ケーブルを二軸回転機構に導入することで今回初めて可能になった実験であり、装置開発としての意義も大きい。またドイツドレスデンのグループと共同で、単結晶試料の微細加工を行い、70テスラまでのパルス磁場中において電気抵抗、ならびにホール抵抗の精密測定を行った。その結果メタ磁性転移以上で出現する二つ目の磁場誘起超伝導相の近傍において、ホール抵抗が著しく抑制される振る舞いを見出した。この結果は電子状態の大きな変化を示すものであり、第二の磁場誘起超伝導相の起源解明に寄与する意義を持つ。また、小型比熱セルの開発を行い、1ケルビン以下の極低温領域まで測定可能な角度回転比熱測定の実験系の構築に成功した。このような実験は世界的にも類を見ないものであり、物性物理実験手法の開発として大きな意義を有する。
2: おおむね順調に進展している
高品質単結晶試料と精密角度回転機構を用いた実験によって、強磁場超伝導相の起源解明に寄与する実験結果を得ることができたため。またベクトル強磁場、極低温環境下における比熱測定系の構築に成功したため。
今回開発に成功した比熱測定の技術を高圧下の実験にも拡張し、磁場誘起超伝導相の圧力変化、ならびにその磁気異方性などの研究行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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