研究課題/領域番号 |
22H01180
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 英典 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40187935)
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研究分担者 |
北川 健太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (90567661)
平岡 奈緒香 (太田奈緒香) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40758827)
松林 和幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (10451890)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / キタエフ系 / ランタノイド化合物 / 半金属 / 高圧実験 |
研究実績の概要 |
本課題では物質相開拓とプローブ開発の両面でキタエフ量子スピン液体の開拓研究を進展させることを目指している。最初に、予備研究で見出した候補物質のCu3SmTe3を研究対象とした。磁性状態の評価に耐える良質な結晶の育成に成功し、続いて磁化・比熱・単結晶NMR測定によりスピン液体ではなく1.2 K以下で反強磁性に転移することを決定した。しかし、単純なスピン1/2反強磁性体には当てはまらず、研究計画で後述するように未解明な点がいくつかある。これらがキタエフ物性に関連している証拠はないが、擬スピン1/2ランタノイド磁性の新しい展開の可能性として次年度に追求していきたい。 異なるアプローチのキタエフ関連半金属状態として、CrSiTe3の高圧下磁性状態を研究している。CrSiTe3では3/2スピン間のキタエフ型相互作用の存在が理論予測されてきた。非静水圧条件下で行われた先行研究では、圧力印加による構造相転移(約9 GPa)と同時に強磁性絶縁体ー非磁性金属転移が生じることと、超伝導の発現が電気伝導測定から報告されていた。高圧下精密磁化測定技術を用いてより静水圧性の高い条件下で評価したところ、高い転移温度(>100 K)を持ち飽和磁気モーメントの小さい強磁性半金属状態が構造相転移を伴わずに6 GPa以上に現れることが判明した。 キタエフ量子スピン液体の有力候補であるRuCl3の熱輸送現象の測定を行い、中性準粒子の量子振動であるとされた熱伝導率κxxの磁場依存性に現れる構造がフォノン熱伝導に由来し、磁場誘起相転移に伴う低エネルギー磁気励起によるフォノン散乱であることを明らかにした。一方、熱ホール効果の量子化については量子化と考えても矛盾はないが、他の寄与、例えばトポロジカルマグノン、フォノンを否定することはできない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ランタノイド半金属に着目したキタエフ候補物質のCu3SmTe3結晶育成に際しては、不一致溶融性による困難さに直面し、計画よりも想定以上に時間に費やした。しかし、仕込み組成比と焼成温度条件の工夫により、現在では良好な単結晶が再現性良く得られるようになった。今後は当該物質及び類似物質の研究が大幅に加速する。 当初の計画を超えて、3d電子系のCr化合物の高圧下磁性状態にも着目した。その成果として、小さな磁気モーメントと高い転移温度を持つ異常な強磁性相が発見された。これは、低キャリアの半金属状態と3価Crのスピン3/2の組み合わせであるため通常の強磁性理論を用いて説明することが難しく、今後面白い展開につながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに判明した、Cu3SmTe3の磁性とCrSiTe3の高圧強磁性相が量子スピン液体の物理と関連付けられるかが、課題である。Cu3SmTe3では、二段の逐次相転移が存在すること、相転移温度が磁場に殆ど依存しないこと、NMRで観測された常磁性状態のゆらぎがクラマース系では通常は支配的でないOrbach過程にフィットすることが異常であり、単純な擬スピン1/2反強磁性体ではないことを示唆している。両物質ともに低キャリア・低次元系であるため、電荷ドーピングと高圧印加による磁性制御で相図を作成し、スピン液体近傍に位置するかどうかの証拠を集めていく。 CrSiTe3では高圧強磁性(半)金属相における飽和磁気モーメントの短縮が何らかのフラストレーションに関係している可能性を次年度に検証していきたい。なお、ゼロ抵抗は我々の測定でも再現したが、超伝導のバルク性については今後検証していく必要がある。 両物質等での高圧下相図の作成にあたっては、現在製造中の新しい高圧セルを使った精密磁化測定技術を用いる。銅チタン合金を用いた高圧セルであり、従来よりも精密に高圧下磁化を測定することができる。さらに、磁化測定と同時に磁気共鳴・比熱測定を行う技術を開発することにより、新奇な量子磁性相の開拓を迅速に遂行する。
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