研究課題/領域番号 |
22H01191
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉岡 潤 立命館大学, 理工学部, 助教 (50708542)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 液晶 / ソフトマター / 非平衡 / 流動 |
研究実績の概要 |
液晶によって形成される滴(液晶滴)の系において、温度勾配を与えたときに生じる差動回転、および自励振動現象といった非平衡現象を対象とした研究を行っている。これらの現象は、勾配印加時に滴内部に発生する対流によって駆動されていると考えられており、現象の機構解明のためには滴内部の流動場測定が必須である。そこで本研究では、最初に滴内部の流動場を測定できる実験系を構築する。これと既存の実験手法を用いて、上記非平衡現象が発生している際の滴内部の配向場、流動場を測定する。これらの実験結果に基づいて、近年提案されたオンサーガーの変分原理を用いて、配向場と流動場の相互作用の観点から現象の機構を解明することを目的としている。 2022年度は、主に流動場測定の実験系の構築を行った。その結果、蛍光退色法と共焦点顕微鏡観察を組み合わせた手法を用いることによって、滴内部の流動場を3次元的に測定できるようになった。これは本研究の目的を達成する上でとても有用である。 一方、温度勾配下の液晶滴の非平衡現象に関しても新規な発見があった。温度勾配下、降温過程において液体からコレステリック(Ch)液晶相へと転移が進行するところを詳細に観察したところ、回転運動を伴いつつCh液晶の秩序が形成されることが判明した。この秩序形成は温度変化の過程に強く依存し、過程を制御することで最終的に実現されるCh液晶滴の構造を変化させることが出来る。また、前述の手法で滴内部の流動場を測定したところ、対流の発生が明確に観測され、流動がCh液晶の特徴的な秩序形成に強く影響していることが示唆されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、液晶滴内部の流動場を3次元的に測定できる実験系を構築することが2022年度の目標であった。本研究では、局所的に退色させた蛍光色素の濃度分布の時間発展から流動場を算出する蛍光退色法を用いる。この手法においては、試料内部に分散させた色素の拡散が遅いほど、流速分布の測定精度および空間解像度が向上する。よって本研究では、先行研究においてよく用いられていた低分子の蛍光色素の代わりに、分子量が大きく拡散の遅い蛍光高分子を用いた。これに加えて、色素の濃度分布の観測を2022年度の予算で購入した共焦点蛍光顕微鏡を用いて行うことで、液晶滴の各断面における流速分布、ひいては滴内部の3次元的な流動場の取得を可能にした。この時点で、2022年度の目標は達成されたと言える。 一方、側面が空気界面に晒されたCh液晶滴を作製し、温度勾配下、降温過程において滴内部で液体からCh液晶相へと2相共存状態を経て転移が進行するところを詳細に観察したところ、配向場が回転しつつCh液晶の秩序が形成される様子が観測された。さらに、得られたCh液晶滴を加熱し部分的に液体状態に転移させたのち冷却すると、滴内部の配向場が加熱冷却前とは異なった状態で安定化することが判明した。また、回転運動に着目すると、温度に依存して回転方向が反転することが見出された。そこで、上記の手法で滴内部の流動場を測定したところ、温度勾配印加時に対流の発生が観測された。加えて、回転方向の反転に対応して対流の方向も反転していることが判明し、回転運動は流動によって駆動されていることが強く示唆された。この対流の介在が、上記の特徴的なCh液晶滴の配向状態変化にも関連していると我々は考えており、その機構を明らかにすべく理論解析を行っているところである。 以上より、当初の予定から若干の変更はあったものの、研究は順調に進行していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度に最初に取り組むべきは、2022年度に発見した、空気界面に晒されたCh液晶滴における回転現象、および構造変化現象の機構解明である。この現象が生じているときの配向場、および流動場は、2022年度の実験によって概ね明らかになっている。これらに基づいて状況を簡略化したモデルを作成し、オンサーガーの変分原理を適用することで配向場と流動場の相互作用の観点から、現象の機構を説明することを試みる。 上記に加えて、本研究開始時点で課題であった液体溶媒中に分散したCh液晶滴における差動回転現象の機構解明に取り組む。溶媒中のCh液晶滴に対して温度勾配を与えると、配向場の回転のみならず、回転流が発生する。このとき、回転の角速度が場所によって異なる差動回転を示すことが過去の研究で判明している。この系において、光学顕微鏡観察をはじめとする既存の実験手法と、2022年度の研究で得られた流動場測定手法を用いて、配向場と流動場を詳細に測定する。上記と同様に、得られた実験事実をもとにモデルを作成し、オンサーガーの変分原理を用いて現象の機構、ならびに実験結果を定量的に説明することを試みる。
|