研究課題
磁場やプラズマのエネルギーの変換器として様々な現象で本質的な役割を担う無衝突衝撃波や磁気リコネクションは、宇宙空間や実験室プラズマ中に普遍的に存在する磁気流体(MHD)的なマクロな現象である。その構造はMHD的に理解できるが、衝撃波の遷移層での散逸やリコネクションのトリガー機構、さらに非熱粒子の加速については、ミクロな物理が支配していると考えられている。本研究では、特に電子ダイナミクスに 着目し、非平衡プラズマ中のマクロ構造を支配するミクロな物理を、パワーレーザーを用いて実験的に研究する。2022年度は、リコネクションに伴うプラズマの局所計測に関する論文をSpringer Nature社の国際誌、Scientific Reportsに発表し、プレスリリースをおこなった。また、リコネクションや無衝突衝撃波等の高エネルギー現象では、プラズマが非平衡、非定常、非線形であることがほとんどである。これは宇宙、実験室に関わらずプラズマに普遍的な性質であるが、レーザープラズマの局所計測に用いられるトムソン散乱では、平衡、定常、線形という仮定があった。リコネクションや無衝突衝撃波の近傍でしばしば観測される自由エネルギーがある系、例えば二流体系における不安定なプラズマについて、トムソン散乱の理論と数値シミュレーションにより研究し、プラズマの専門誌に発表した。この他、高エネルギー粒子計測器開発等複数本の学術論文と内外の会議での成果発表をおこなった。2022年度の実験は、阪大レーザー研のパワーレーザーGXIIレーザーを用いプラズマを生成し、磁場構造計測のためのイオンビームを高強度レーザーLFEXを用いて生成し、レーザープラズマ中の電磁場のイオンラジオグラフ計測を行った。現在結果を解析中であるが、細かい電磁場構造の計測に成功しており、これもインパクトの高い成果として発表予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
LFEXとGXIIを同時に用いるマシンタイムが採択されたため、前倒しでプラズマ中の電場計測実験をおこなった。多方向からレーザー照射が可能なターゲットチャンバー1(T1)を用いた。これまでの実験は一方向照射のT2を用いており、若干条件が異なっている。特にイオンビー ム生成のLFEXレーザーは高真空を要し、T2で行ったガスフィルでのショットが不可である。90度に配置した2枚の固体ターゲットを用いて、二流体プラズマを生成した。また、実験室宇宙物理では比較的大きな(~1 cm)プラズマを生成するため、非相対論強度までLFEXをデフォーカスし、十分な視野を確保した。非相対論強度でレーザーイオン加速の実績のある、独自開発のlarge-area susupended grapheneをターゲットとして用い、イオン検出器にはこれも独自技術である複数の固体飛跡をスタックで用いた。結果は、プラズマ生成のGXIIレーザー照射タイミングから比較的早い 段階(10 ns)では、コヒーレントな波状の構造を捉えており、時間の経過とともに乱流的な構造に発展していく様子が捉えられている。まずは衝撃波等のマクロな構造が取れれば大成功だと思って難しい実験に臨んだが、結果は我々の想定を大きく超えて、非常に複雑で美しい構造が捉えられている。
今後は、イオンラジオグラフに用いた固体飛跡のイオンピットの情報から、機械学習を導入してイオンビーム中のイオン一つ一つのエネルギーと位置情報を求め、さらにその膨大なデータを用い電磁場の再構築を行う予定である。機械学習を用いたイオンピット解析については、独自開発ですでに汎用性の高い手法が開発できており、電磁場の再構築には、フランスと台湾との国際共同研究を通して、こちらもAIを導入した解析を進めていく予定である。さらに、固体飛跡の一種である蛍光飛跡検出器を用いた化学処理を必要としないイオン計測手法も開発し、ここにも同様に機械学習や畳み込みニューラルネットワークを導入して行く予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (42件) (うち国際学会 17件、 招待講演 4件)
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