研究課題/領域番号 |
22H01231
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嶋 達志 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (10222035)
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研究分担者 |
三島 賢二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (20392136)
北口 雅暁 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (90397571)
吉岡 瑞樹 九州大学, 先端素粒子物理研究センター, 准教授 (20401317)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 重力の逆二乗則 / 未知相互作用 / ナノ粒子 / 水素吸蔵合金 / バナジウム |
研究実績の概要 |
重力は、弱い重力場の近似では逆二乗則に従うと考えられているが、数μm以下の距離では素粒子の標準模型を超える効果により、逆二乗則からのずれが生じ、重力様の未知相互作用が現れ得る。重力様の未知相互作用は、約100nm以上の領域ではねじり秤等を用いて精密な探索が行われているが、100nm以下では分子間力が深刻なバックグラウンドとなる。本研究は、分子間力に不感な中性子小角散乱を用い、探索する距離と同程度の大きさを持つナノ粒子を標的として用いる。ナノ粒子を構成する約1000万個の原子が干渉性散乱に寄与するため、測定感度が大幅に向上する。この際、核散乱も同様に増強されバックグラウンドとなり得るが、負の核散乱長を持つバナジウムナノ粒子に正の核散乱長を持つ重水素を適量吸蔵させることにより相殺させ、核散乱を抑制する。これによって100nm以下での感度を3~5桁改善し、未踏の領域での未知相互作用探索を行う。バナジウムは常温・常圧で優れた水素吸蔵能力を備えた物質として知られているが、ナノ粒子化した場合の吸蔵特性はわかっていない。また少なくともバルクなバナジウム材においては、微量の酸素が含まれていると水素吸蔵能力が低下することが知られているが、一般に金属ナノ粒子は極めて容易に酸化されることも知られている。そこで2022年度は、できるだけ酸素含有量の少ないバナジウムナノ粒子の開発に注力した。その結果、ナノ粒子の製造法の一つであるジェットミル法を用いて0.7重量%以下の低酸素濃度の試料を作成することに成功した。現在、もうひとつの有力な製造法であるRF熱プラズマ法による試料の分析を進めている。またこれと並行して、雰囲気の水素ガスの温度・圧力と吸蔵される水素量との関係を調査するためのガスチェンバーの開発を行い、動作試験を行った結果、1gの試料に対して吸蔵比を0.1%の精度で制御できることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、純バナジウムナノ粒子試料としては市販品または我々自身が作成したものを使用することを予定していたが、いずれも5~15重量%程度の酸素を含有していることが判明した。この場合、酸素の寄与だけで既に合成散乱長の許容範囲を超えてしまうため、酸素を含まないナノ粒子の製造法が課題となった。そこで、あらためて製造工程をひとつずつ点検し、作業環境および保管方法を最適化することで酸化の問題を克服することができた。これによって、当初2022年度内に予定していた重水素吸蔵特性の調査が2023年度上半期にずれこんだが、2023年度下半期に予定している大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設のパルス中性子源を用いた試験測定には十分間に合う見込みであり、研究期間全体から見ればおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
酸素量ができるだけ少ないバナジウムナノ粒子の製造が最大の鍵であり、これに関してジェットミル法およびRF熱プラズマ法という2通りの方法を適用し、製造された試料の酸素濃度の比較を行っているところである。前者については 0.7重量%程度であることが判明しているが、最終的により酸素濃度の低い試料を採用し、重水素吸蔵特性の調査を2023年度上半期に実施する。その結果を踏まえて2023年度下半期にJ-PARC施設において中性子小角散乱の試験測定を行い、重水素の吸蔵量の増減に対して散乱断面積が極小値を示すことを確認する。また、同じ標的試料について、重力相互作用の影響が現れないX線小角散乱測定を行い、中性子小角散乱データと比較することによって最終的に未知相互作用のパラメータに対する制限を与える予定であるが、X線小角散乱測定を行うための実験セットアップを検討し、標的セルの開発を行う。 また、中性子小角散乱測定においては入射中性子ビームの発散成分が小角散乱成分に対するバックグラウンドとなり、未知相互作用に対する検証感度を劣化させるため、2024年度にビームコリメータの微調機構を導入し、感度の向上を図る。またナノ粒子の純度の向上も並行して進め、最終年度に最高感度での測定実験を実施する。
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