研究課題/領域番号 |
22H01235
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
長野 邦浩 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90391705)
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研究分担者 |
田窪 洋介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (50423124)
隅田 土詞 京都大学, 理学研究科, 助教 (80624543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 量子もつれ / ベル不等式 / ATLAS実験 / B中間子 |
研究実績の概要 |
本研究で新たに考案した、陽子・陽子散乱反応からのB中間子を用いたベル不等式の検証実験で重要となるのは測定効率である。より堅牢な検証とするためにはATLAS実験ではこれまで行えなかった低い横運動量領域まで、ミュー粒子測定、D*粒子崩壊測定を改良する新規開発が必要となる。本年度は、まずはミュー粒子測定効率を制限しているハードウェアトリガーの改良に成功した。横運動量しきい値を下げたトリガー論理をFPGA回路上で対応表として開発し、実機に導入した。本年度から開始されたLHC第3期 (Run3) 運転において実際に運用してデータ取得に成功した。新ハードウェアによるトリガーを立ち上げ、コミッショニング・運転をするために本研究協力者の辻川をCERN研究所に派遣した。 D*粒子は内部飛跡検出器による飛跡情報を用いて測定する。本研究代表者の長野がCERN研究所に渡航して、飛跡検出器トリガーの立ち上げに従事し、Run3において実データを高効率で取得することに成功した。また、本研究分担者の田窪がCERN研究所に滞在して、飛跡検出器のうちピクセル検出器の立ち上げ・運転に従事し、Run3で取得されたデータをすぐさま検証した。 以上のように、改良したミューオントリガー、高効率の飛跡検出でRun3運転を正常に立ち上げてデータ取得、と当初の計画どおりの成果を上げることができた。 また、飛跡情報からD*粒子崩壊を再構成するオフラインでのデータ解析手法については、まずは比較的高い運動量領域における再構成手法を確立することに成功した。データ解析サーバ用にMac Studioを購入し、高エネルギー加速器研究機構に設置した。 研究結果について、国際会議2件、日本物理学会1件、研究会1件(招待講演)にて、講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を成功に導くための鍵の一つであったは、Run3開始までにハードウェアミューオントリガー改良を間に合わせ、新ハードウェアをコミッショニングして正常にデータ取得できるところまで完成させることであったが、当初の計画通り、本年度に成功することができた。また、3年という長期の休止期間ののち、パイルアップや衝突輝度が大きく上昇してトリガー・データ収集系などへの難易度が高くなったRun3において、飛跡検出器および飛跡をもちいたトリガーも無事に立ち上げ、高効率でデータ取得することに成功したことも、本研究を完遂するにあたって大きな成果である。これにより、低いパイルアップ特別運転でのデータ取得も含め、今後のRun3データ取得が、当初の本研究の計画通り進められることがほぼ間違いない状態になった。 D*粒子崩壊の再構成手法の開発も、予想より多い背景事象など当初、幾つかチャレンジがあったが、カットの最適化などで乗り越え、比較的高い運動量領域においては、高効率かつ背景事象の少ない良い手法を確立することができた。この手法で、最終的に目指すベル不等式検証への感度も十分あることもシミュレーションで確認でき、D*再構成の面でも現在、特に大きな問題はなく、順調に研究は進展している。 したがって、総じて見ると、本年度に当初見込んでいた研究成果はすべて得られており、本年度の目標は達成、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初の研究計画どおり順調に進展しているため、今後も当初の研究計画通り、推進していく予定である。2023年度については具体的には以下のように進める事を計画している。 ハードウェアミューオントリガーについては、背景事象によるトリガーレートの削減のために、Run3から新たに内層に設置されたミューオン検出器情報を利用する改良を行う。FPGA回路のエキスパートである研究協力者の辻川をCERN研究所に派遣し、改良および実機への導入、データ取得まで担当させる。 ミューオン再構成に関しては、取得された実データから特に低い運動量領域における効率を測定し、シミュレーションと詳細に比較検証する。特に電荷による偏りについては、最終的なベル不等式検証の系統誤差となりえるため、詳細に検証し、理解することが必要である。 D*再構成については、2023年度は、低い横運動量の飛跡を用いるように発展させる。偽組み合わせなどによる背景事象の増加が予想され、また、低い横運動量領域における飛跡の測定効率の理解による系統誤差も予想される難関であるが、効率および最終的なベル不等式の感度上昇が期待できるので、ぜひ取り組みたい。カイ自乗などのフィットに関連する変数や飛跡の横方向飛程などの変数を組み合わせて、シミュレーションでベル不等式検証への感度上昇の評価を行うことで、再構成手法を最適化する。 また、平行して、ベル不等式検証の系統誤差の理解を進める予定である。特に背景事象による影響、偽組み合わせ間違いによる背景事象か、他のD中間子やB中間子からの運動学的反射背景事象か、シミュレーションなどを用いて研究し、最終的なベル不等式検証の系統誤差を最大限に抑える解析手法の確立を目指す。
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