研究課題
MeV領域からkeV領域の中性子は宇宙において、鉄より重い元素の生成や、太陽系における隕石中の同位体組成異常の原因などの重要な役割を果たしている。隕石の同位体組成分析によって、現在では消滅している数十万年以上の半減期の放射性同位体が、太陽系形成時に宇宙線で生成されたことが判明している。また、約371.9億年の半減期を有する放射性同位体176Luのβ崩壊が加速したように見える現象がみつかっている。近年、急速に発達しているレーザー加速粒子では、短パルス、高輝度、連続エネルギーのパルスを生成できる。レーザー駆動中性子による宇宙核物理研究をすすめる。大阪大学のLFEXレーザーから供給されたレーザーを約10^18W/cm^2の強い集光強度で、水素を重水素に置換した固体ポリエチレンターゲットの表面に集光することで、電子をレーザー加速する。電子が放出された瞬間に、電子パルスとプラズマの間に極めて強い静電場が形成される。この静電場によって陽子と重陽子がそれぞれ、約30MeV/u、約10MeV/uのエネルギーまで加速された。ベリリウムターゲットを設置し、p+Be反応等で中性子を生成した。中性子エネルギーは約8mの距離の検出器で飛行時間計測法で計測した。また、モデレーターで中性子の減速を行った。その直後に試料を設置し、照射後に試料をGe検出器でγ線計測を行った。その結果、176Luでは中性子による加速崩壊が起きたことを確認した。中性子の非弾性散乱によって、半減期が約3.7時間でβ崩壊するアイソマーに遷移され、続けてβ崩壊する現象である。隕石に観測された176Luの崩壊加速メカニズムとして、高エネルギー宇宙線から生成されたMeVエネルギーの中性子による加速崩壊を提唱した。さらに、小惑星リュウグウにおけるその効果を計算した。また、新しい検出方法で176Luの半減期の最も確からしい値を測定した。
2: おおむね順調に進展している
大阪大学レーザー科学研究所のLFEXレーザーを用いてレーザー中性子生成実験の実験を行っており、次年度以降の実験の見通しが立っているためである。これらの実験では、実際にレーザーによる中性子生成及び、中性子のエネルギー計測を行っており、また、中性子入射反応が発生したことをガンマ線計測で確認している。また、既に本科研費で導入した検出器も実験で測定に用いている。Ge半導体検出器の電気冷凍機を導入し、測定に用いた。既に、中性子照射による176Luの加速崩壊の実験データが得られており、来年度以降により精密な実験結果が得られると期待される。
大阪大学レーザー科学研究所のLFEXレーザーを用いてレーザー駆動中性子の生成を行い、最適化したモデレーターを用いて中性子のエネルギー分布を宇宙核物理学で重要なエネルギー分布に調整する。遅い中性子捕獲反応過程(s過程)は、主に低質量(太陽質量の0.6~3倍)の漸近巨大分枝星で発生するが、質量が大きい巨大質量星の進化の過程でも、弱いs過程が発生する。前者では、平均温度(エネルギー)が8~30keVであるが、後者では最大100keVに達する。また、近年の隕石分析によって高エネルギー宇宙線の核破砕反応で生成された中性子による核反応の痕跡が見つかっている。特に176Luの加速崩壊とみなせる現象が見つかっており、このメカニズムの解明が重要である。小惑星リュウグウから回収された貴重なサンプルでも176Luの加速崩壊の兆候がみつかっている。我々は、宇宙線中性子による加速崩壊を提案すると同時に、最初の原理実証実験をレーザー駆動中性子を用いて行った。この研究をさらにすすめる。モデレーターの設計としては、ホウ素を主な物質とした減速材が優れているとの結果を得ているが、コストと安全性の観点から、最適化する。そのため、現在すすめているシミュレーション計算をさらにすすめ、より優れた材質、形状を求める。モデレーターを中性子発生のためのベリリウムターゲットの後段に導入し、生成した高エネルギー中性子(平均エネルギー1MeV程度)の減速を行い、上記の宇宙核物理学で重要な平均エネルギーを有する連続分布にスペクトルを調整する。低エネルギー部分については、Li-6グラスシンチレーター検出器による飛行時間計測法を行う。さらに、金などの標準的に用いられる物質に中性子を照射し、中性子捕獲反応及び、高エネルギー中性子の(n,2n)反応で生成された不安定同位体のβ崩壊にともなうγ線計測を行いエネルギースペクトルの検証を行う。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件)
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