研究課題/領域番号 |
22H01301
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
市川 香 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (40263959)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 黒潮 / 海面高度 / 伊豆小笠原海嶺 / GNSS / フェリー観測 |
研究実績の概要 |
黒潮の流向が北へ変わる伊豆海嶺周辺では,海底地形の影響を受けて流路の位置が短時間で大きく変わる。安全かつ効率的な漁業や操船への影響が大きいため,流路の正確な位置と変動の把握が求められている。しかし,この海域の観測網は現状では粗く,予報に使われるデータ同化モデルの主入力データである人工衛星海面高度計が10日・300km程度の分解能しかないため,数日以下の突発的な流軸変動は満足に捕捉できていない。 上記の問題点を補うため,本研究は伊豆海嶺付近で黒潮を横断するフェリー橘丸にGNSSアンテナを取り付けて,高頻度の海面高度の計測を行う。海面からのGNSS反射波を用いるGNSS-R手法で海面とアンテナ間の距離を推定し船体の喫水の変化を推定する。またデータを長期間蓄積させて,高度観測値に含まれるジオイド高と潮汐を分離する。 東海汽船と交渉し,2022年の橘丸のドック期間(6月)に装置アンテナとロガーを取り付け,観測を開始した。記録用PCや通信用モデムの発熱量が想定より大きく高温になる等の問題が頻発したが,強制排気ファン設置や通信時間帯の制限により,安定したデータ取得ができるようになった。 取得したデータを解析したところ,以下の結果を得た。①フェリーのGNSSのみの単独測位の結果は誤差が大きく使用に耐えなかった。②国土地理院が設置しているGEONETを参照すれば,この問題は大幅に改善できた。新たに自前の参照点を設置しなくても個数は充分であった。③船内のPCで処理したデータであれば,東京湾停泊中に転送可能で,自前の通信局の設置も不要だった。④推定した高度にメートル単位の大きなバイアスが入ることがあった。船体からの反射波によるマルチパスを取得している可能性があり,今後の対応が必要である。⑤フェリーの航路が想定より変わるので,データの蓄積により長い期間が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,最大の課題である測器の設置が無事に終了できた。長期観測を行うためには大型の治具で安定して固定設置しないといけないため,船舶のドック期間中でないと作業ができない。通常,ドックは1年に1度しか行われないため,6月の設置に間に合わなければ1年間データ取得が遅れていたところであった。 取得したデータの品質に関しては,ほぼ想定通りだが,船体からの反射信号が想定以上に多く入っていたので,この点は対応が必要である。2023年度のドック時にアンテナを取り換えるほか,使用するGNSS衛星を方位角や信号強度でフィルタリングするプロセスを導入する予定である。 フェリー航路も,想定よりも変動していた。定期船なのでほぼ同じ航路を通ると予想していたが,海況に応じて進入角度等を変更するため,数kmの航路差が生じていた。ジオイドの空間変化が大きな海域なため,場所によるジオイド高の違いが海面高度に反映されるため,慎重に分離するためにより長期間のデータの蓄積が必要である。 なお,船舶のPC上で処理を行えばデータが軽量化されるので,東京湾停泊中に転送が可能である。新たにデータサーバ用の計算機を購入したので,基礎処理データを蓄積し,最適な解析法を模索する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年6月のドック時に,船体からの反射波の混入や,他の通信機器からのノイズを軽減させるために,より高精度の測量用アンテナの交換を行う。また,屋外ケース等の消耗品も交換する。 さらに,船上PCでの自動処理を拡張させ,船上でデータ解析を行った後に東京湾停泊中にデータを転送する処理を自動化する。ただし,天候不良によって一部の島に着岸せずに航行する事例が少なくないため,寄港時間は変更する可能性がある。こうした事例にも対応できるように,最適な自動処理を試行錯誤する。 加えて,測定した結果の検定を行う。東京都の水産センターが水温データ解析などを基に毎日作成している黒潮流軸位置の推定結果と比較するほか,NASAが打ち上げた新型海面高度計SWOTの検定用軌道(2023/5~7)を用いた検定を行う。具体的には,本装置と同型のセンサーを豊後水道を横断するフェリーに取り付け,同じ時刻の高度計の観測結果と比較することで,海面高度としての直接比較を行う。
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