研究課題/領域番号 |
22H01342
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 潤一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10435836)
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研究分担者 |
石川 晃 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20524507)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 白亜紀-古第三紀境界 / デカン洪水玄武岩 / 大量絶滅 / 天体衝突 / 白金族元素 |
研究実績の概要 |
白亜紀-古第三紀境界(K-Pg)では,ユカタン半島に小惑星が衝突したことが知られる.ほぼ同時期の後期白亜紀末から暁新世にかけて,インド大陸ではデカントラップが噴出した.この洪水玄武岩は,陸上洪水玄武岩で最も若い.デカン洪水玄武岩の噴火もまた,地球温暖化や海洋酸性化を引き起こし,白亜紀末の大量絶滅の一因を担ったと指摘されている.近年,高精度放射年代測定によりデカンtトラップの噴出年代が特定され,層厚3.5 kmの溶岩がK-Pg境界を挟む約70万年間に集中して噴出したことが判明した. 本研究課題は,南半球中・高緯度を中心とした世界各地の7サイトで掘削回収されたコアに挟在するK-Pg境界層について,高解像度で海洋のオスミウムOs同位体分析を行い,白金族元素PGE組成を分析する.これにより1)地球史で最も若い巨大陸上洪水玄武岩であるデカントラップの形成開始のタイミングをより正確に特定し,2)そこから全球海洋への物質供給を追跡する.デカントラップから比較的近距離~中距離(4,000~12,000 km)の海域でOs同位体記録を得るため,洪水玄武岩の噴火開始のタイミングを正確に制約でき,さらにインド洋から離れた遠距離サイト(>12,000 km)の堆積物も分析し,比較することで,洪水玄武岩から海洋への(白金族を含む)元素供給のプロセスを読み解くことができる.一方,南半球中~高緯度は天体衝突地点のユカタン半島からみて地球の反対側にあたり,欠損のない連続記録が得られる可能性が高い.洪水玄武岩の明瞭な記録と,連続的な天体衝突時の記録が同時に得られるのが,この海域の特長である.この特性を利用し,デカントラップ洪水玄武岩の厳密な噴出開始のタイミング,その噴火とその後の玄武岩の風化が大気海洋の物質循環に及ぼした影響,白亜紀末~暁新世の気候変動への寄与について検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,分担者の石川が開発したオスミウムの低ブランク化により,これまでよりもはるかに作業ブランク寄与率の低い高精度・高確度のデータを得ることに成功したことは,大きな成果であった.この2022年度の研究により,南西オーストラリア沖メンテレー海盆のIODPサイトU1514CのOs同位体データが出揃った.このサイトのデータは,強く生物擾乱を受けており,生物擾乱による堆積後の化学組成の再分布について,数量的な均質化の評価を行ってきた.これらの成果をまとめた論文を現在執筆中であり,2023年6月を目標に国際学術雑誌に投稿予定である.また,東オーストラリア沖ロードハウライズのサイト208掘削コアのデータが出そろい,論文化が完了した.また,北西太平洋シャツキー海台,西赤道大西洋デメララ海台,南東大西洋ウォルビス海嶺のデータを取得することができた.これらのデータについては,新たに論文で成果を公表する予定である. 一方,白金族元素分析についても,分担者の石川が新手法を開発し,その手法に基づき高精度データを得ている.これにより,K-Pg境界層で白金族元素の分布の特徴中でも,Ru, Ir, Os と Pd, Pt とで堆積時の供給や堆積後の再分配の特徴が異なり,それぞれの挙動が示す地球化学的特徴を議論している.これらの新知見について,新たな論文を作成する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には,分担者の石川が開発した低ブランク化の手法を引き続き用いて,Re-Os分析を進める.特に,ウォンバット海台のサイト761,ケルゲレン海台のサイト1138のOs同位体分析および白金族元素濃度分析に重点を置いて研究を進める.これら2サイトは,古地理配置上,とりわけデカントラップに近く,洪水玄武岩の噴出開始年代を制約するのに極めて重要なサイトとなる.さらに,デカントラップの近傍から遠方にかけて堆積物の主要・微量元素組成を測定する.これにより,洪水玄武岩由来の物質の溶出,供給,堆積についてこれまでにない解像度で定量的に評価する.更に,日本国内のK-Pg境界にも注目する.それは,北海道十勝郡浦幌町川流布地域に露出する根室層群の一部で,泥質岩を主体とする連続露頭である.このセクションのRe-Os同位体分析と,白金族元素濃度測定を行い,K-Pg境界層の連続性を評価する.もしチクシュルブの天体衝突層準が見つかれば,日本で最初の完全連続K-Pgセクションの発見となり,国内の社会的注目度の高い研究となる. これらの研究と並行して,さらなる分析手法の向上を目指す.具体的な,作業ブランクの低下,煩雑な前処理工程の簡素化,使用する試薬類の低減化,分析の迅速化である.これらは,2023年度以降も引き続き重点課題として取り組む予定である.
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