研究課題
3次元X線回折(3DXRD)顕微鏡法は放射光X線を用いて多結晶金属試料内部の結晶方位マッピング像を3次元非破壊で得ることができる手法である。この方法では試料180°回転にわたって試料透過方向のX線回折像を記録することで試料内部の3次元結晶方位マッピング像を再構成することができる。しかし、試料回転軸を直立させて回転するため試料の大きさと形状に制約が生じ板形状の接合構造体試料に適用することができない。本研究では、試料回転軸を45°傾斜させることにより試料360°回転にわたって試料透過方向の回折X線を検出できるようにすることで板形状の試料内部の3次元結晶方位マッピング像を再構成することのできる傾斜型3DXRD法を提案する。初年度は(a)再構成理論の構築及び再構成計算のコード化と(b)実証実験を行った。(a)では主に多結晶指数付け理論を傾斜型配置へ拡張し、指数付けアルゴリズムの構築を行った。この多結晶指数付けアルゴリズムをワークステーションへ実装し、単ノードではあるが複数のCPUコアで並列処理できるようにした。(b)では大型放射光施設SPring-8における高輝度放射光源アンジュレータを有するビームラインBL29XUにおいて実験セットアップ及び測定系の立ち上げを行った。検証実験では開口20μmスリットを通して得られるビームサイズ約20μmの単色X線(37keV)を入射ビームとして用いた。また試料には粒径数十μmで外径300μmの粗大粒化純鉄線を用いた。45°傾斜させた軸の周りの試料回転を含めた試料3次元走査により収集したX線回折画像を用いて再構成した結果、用いた試料の多結晶構造をよく表す3次元結晶方位マッピング像が得られた。原理検証用の粗大粒化線材試料ではあるものの傾斜型3DXRD法の原理を実証することに成功したと言える。この成果を論文にまとめて国際結晶学会の学術雑誌に投稿した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の計画は大きく分けて下記3項目でありいずれも概ね達成した。(1) 理論の構築: 傾斜型3DXRD法の構築、試料回転軸を任意の角度傾斜させた場合の多結晶指数付け理論の構築、多結晶指数付けアルゴリズムの構築、ワークステーションへの実装(単ノード複数CPUコアで並列処理)(2) 実験: SPring-8高輝度放射光源アンジュレータビームラインにおける実験セットアップ及び測定系の立ち上げ、粗大粒化線材試料を用いた検証実験、3次元結晶方位マッピング像の再構成(3) X線集光ミラーの製作: 傾斜型3DXRD用X線マイクロビーム形成のためのX線集光ミラーの設計及び製作
(1) 硬X線マイクロビームを用いた3次元結晶方位顕微鏡の構築: 高輝度放射光源アンジュレータを有するSPring-8ビームラインBL29XUにおいて初年度に製作した長作動距離仕様のX線集光ミラーを用いてビームサイズ1μmの硬X線マイクロビームを形成し板形状試料に入射する。板形状試料は45°傾斜させた試料回転軸にマウントし、試料回転も含め試料を3軸走査しながらX線回折画像を収録する。また試料と検出器の間にコニカルスリットを導入する。これにより板形状試料に適用可能な1μm空間分解能の3次元結晶方位顕微鏡を実現する。空間分解能が得られない場合、傾斜回転ステージの偏芯の角度依存性曲線を計測し、これにより偏芯を補正する。長時間安定性が得られない場合、傾斜回転ステージのステッピングモータの発熱によるドリフトを抑制する等の安定化を図る。(2) 多結晶指数付け計算の高速化: 単ノード用に構築した多結晶指数付けアルゴリズムを複数ノード用に拡張し、これをクラスタ計算機に実装することで再構成計算の高速化を図る。(3) 接合部近傍における粒内方位差増大の観察実験: Sn/Cu接合試料及びSn用コニカルスリットを用いて引張塑性変形前後で接合部近傍におけるSnの非破壊方位マッピング像を得る。各結晶粒のX線回折斑点を抽出し、回折斑点のブロードニングから各結晶粒の粒内方位差を評価する。これにより接合部近傍の粒内方位差増大が非破壊観察できることを実証する。(4) 接合部における応力の評価実験: Sn/Cu接合試料及びCuSn金属間化合物(IMC)用コニカルスリットを用いて引張塑性変形前後で接合部におけるIMCの非破壊方位マッピング像を得る。各IMC粒子の回折斑点に対してコニカルスリットによりX線ラインプロファイルを計測する。これにより接合部の応力が非破壊評価できることを実証する。
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ISIJ International
巻: 63 ページ: 687~693
10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-358