研究課題/領域番号 |
22H01407
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
戸谷 剛 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00301937)
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研究分担者 |
小林 一道 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80453140)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分子内振動の緩和 / 溶剤の赤外線吸収帯 / 溶剤乾燥 / 赤外線連続照射 / 気液界面 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、(2022-1)溶剤(水)の蒸発に最も効果的な分子内振動(赤外線吸収波長帯)の解明実験、(2022-2)緩和挙動を組み込んだ平均場分子運動論解析・分子動力学解析法の開発と溶剤の蒸発量を計算する計算手法の確立、に取り組んだ。 (2022-1)では、水のHOH変角振動(波数:1650 cm-1、波長:6.06 μm)に放射率のピークを持つ波長制御エミッタから赤外線を連続的に水に照射したときと、ヒーターを使用して熱伝導により加熱したときで、水の分子間振動である束縛回転振動(波数:670 cm-1付近、波長:14.9 μm付近)は、赤外線を用いた方が5%程度多く励起されることが分かった。上記の結果は、気液界面での液体分子の分子間振動が蒸発につながるため、赤外線を用いて水のHOH変角振動を励起することで、蒸発を促進できる可能性があることを示唆している。(2022-2)では、緩和挙動を組み込んだ平均場分子運動論解析・分子動力学解析手法として、平均場分子運動論を用いた液体蒸発・蒸気凝縮シミュレーション方法の開発を行った。計算系としては、定常な蒸発および凝縮を調べることができる2液膜問題に注目した。この計算系は、温度の異なる2つの液膜から構成されており、気相を挟んでこれら液膜を配置することで、温度の高い液膜では蒸発現象を、温度の低い液膜では凝縮現象を観察することができる特徴を持つ。さらに、気相は蒸気分子のみではなく非凝縮性気体分子も考慮できるようなプログラムを作成できた。これらの成果は、溶剤の分子内振動への赤外線の照射が、溶剤の蒸発に効果的な物理的理由を明らかにするためのツールとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(2022-1)では、温度制御されたATRアクセサリー測定部に溶剤(水)を滴下し、上から赤外線透過板をのせて薄膜にして、波長制御エミッタから放射されたふく射をポンプ光として溶剤に上方から当て、溶剤の分子内振動を励起した。さらに、プローブ光を溶剤(水)に下方から当て、反射光を検出器で検出し、FT-IRでスペクトル処理した。しかし、この方法では、水膜の厚さによって結果が変化することが分かった。滴下した量と滴下した部分の形状から水膜厚さを推定すること、さらに蒸発量を考慮し残った液体の質量から水膜厚さを推定することを行ったが、赤外線が水膜を透過できる膜厚(文献値)と比較して、1桁ほど違いが見られた。水膜厚さと結果を同定するためにはレーザー等を用いた精密な液膜測定が必要であることが分かった。水膜厚さと結果との同定に時間を要したため、当初予定していた(2022-3)波長制御エミッタを用いた溶剤の乾燥実験を行うことができなかった。 (2022-2)では、液体蒸発・蒸気凝縮シミュレーションの開発を行ったが、本申請研究の主題となる液面の局所加熱による液体蒸発シミュレーションまではできなかった。これは技術的な問題ではなく、構築した定常的な液体蒸発・蒸気凝縮シミュレーションの検証に予想以上に時間がかかったためである。 以上から、(3)やや遅れているという区分にしました。
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今後の研究の推進方策 |
(2022-1)から、結果が水膜厚さによって変化すること、また水膜厚さを同定するには精度の高い測定方法が必要となることから、水膜厚さが結果に影響を及ぼさない方法に変更する。具体的には、波長制御エミッタから放射されたふく射をポンプ光として、プローブ光と同じ溶剤の下方から当て、溶剤の分子内振動を励起する方法に変更する。プローブ光とポンプ光を同じ方向から当てることにより、ポンプ光が液膜を透過する必要がなくなり、液膜厚さの影響が出なくなると予想している。この手法により、当初の研究項目であるポンプ光を溶剤(水、IPA)に当てた時と当てない時のプローブ光の反射スペクトルを比較し、緩和挙動を把握するとともに、分子間振動に対応する波長域の吸収量の変化から、蒸発に最も効果的な分子内振動を明らかにする。 (2022-2)から、定常な蒸発・凝縮現象を観察できるシミュレーション手法を構築したので、この手法を用いて、液面局所加熱による蒸発現象の解明を行う。これまでの分子動力学シミュレーションを用いた研究から、液面が急峻に温められると、蒸発分子の速度分布関数が非等方的になることが示されている。この結果が、平均場分子運動論を用いた解析からも得られるのかを確認する。また、このような蒸発に対する非凝縮性気体の影響を調べ、シミュレーションで用いている分子についても様々な多原子分子へ拡張できるよう検討する。
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