研究課題/領域番号 |
22H01440
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
倉林 大輔 東京工業大学, 工学院, 教授 (00334508)
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研究分担者 |
若林 憲一 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (80420248)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 群体性藻類 / 自律分散システム |
研究実績の概要 |
本研究では,新陳代謝可能な人工システムの実現を志向し,群体を形成する生物が持つ自律分散的な構造体自己形成およびその合目的的制御手法の解明を行う.具体的には,ボルボシン藻類と総称される,単細胞から約1万の多細胞の間で多様な細胞数構成を取る藻類を対象とし,その制御システムとしての群体形成・維持と鞭毛を用いた群体行動の自己組織的制御手法を明らかにする.本研究では,ボルボシン藻類のうちゴニウムを主な題材にとり,(1)ボルボシン藻類の挙動観測システムの構築,(2)個体および群体における遊泳動作の状況依存的応答のモデル化,(3)個体応答と群体の合目的的行動生成の調和システム解析,(4)エッジ情報処理としてのロボット実装,の4項目を相補的に実施し目的の達成を図る.令和4年度は(1)の整備をはかりつつ(2)を実施し,(3)についての予備的検討を行った.具体的には以下の通りである.(1)では,デジタル3自由度光学顕微鏡システムを導入し,AI画像処理技術との併用により光刺激入力に対する遊泳動態を観測可能とする計測システムを構築した.(2)では,刺激入力・行動出力の関係をゴニウムの鞭毛挙動に基づくダイナミクスへ適用し,条件・状況依存的な行動出力変動のモデル化を行った.(3)では,生物学分野におけるボルボシン藻類に関する知見を参照しながら,推定された制御システムが実現可能となるために合理的と思われる群体内相互作用について,状態の位相縮約に基づいて構成的に検討を行い,数理的なモデルを獲得した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究はおおむね順調に進展した.コロナ禍および急激な外国為替相場変動によって,年度当初は一部の装置構成部材について入手が困難であったり納期が長くなるなどの問題が生じたが,年度後半には状況が若干改善しほぼ予定していた観測システムの構築を達成した.これによって観測対象となるゴニウムの遊泳挙動・遊泳軌跡等の計測を可能とした.一方,ゴニウムの挙動解析について,先述のように年度前半には機材整備について懸念があったため,計算機を先行して整備し数理的なモデル解析を重点的に進めた.この結果,仮想力学モデルにおいてゴニウムの遊泳の特徴的な挙動について再現に成功するとともに,システムとしてのゴニウムの状態を位相縮約した形で表現することで,環境からもたらされる入力信号と出力応答との関係を簡潔に表現することが可能となった.このことは,令和5年度に予定している個体間相互作用の解析・設計に向けて本質的な要素の表現となりうるものと考えられ,最終的なロボットシステムへの設計論においても有用なものとなると考えている.これについて,位相振動子の結合系を数理モデルとし,局所的な相互作用のみによって大域的な情報を獲得しうる手法について検討し,結合振動子系を場として位相の波動を生じさせ,これを解析することによって達成しうるという成果を得た.また,この結果に基づいて,ロボットシステムとしての実装に向けて相互作用のための情報交換手段等について予備的な検討を行った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,ボルボシン藻類を題材にとり,(1)ボルボシン藻類の挙動観測システムの構築,(2)個体および群体における遊泳動作の状況依存的応答のモデル化,(3)個体応答と群体の合目的的行動生成の調和システム解析,(4)エッジ情報処理としてのロボット実装,の4項目を相補的に実施し目的の達成を図る.令和5年度は,これまでに構築した(1)を活用し,(2)で得られたモデルを改善しつつ(3)についての解析を進める.また(4)について,(2)および(3)の結果を反映した設計検討を行う.具体的には以下の通りである.(1)において構築した,光刺激入力に対する遊泳動態を観測可能とする計測システムによって,遊泳動態に関するダイナミカルシステムとしてのモデル改善を図り,(2)として刺激入力・行動出力の関係からボルボシン藻類の鞭毛挙動に基づく運動制御システムを構築する.主に研究代表者の倉林が担当する.(3)では,生物学分野におけるボルボシン藻類に関する知見を参照しながら,推定された制御システムが実現可能となるために合理的と思われる群体内相互作用について構成的に同定する.研究代表者の倉林と研究分担者の若林が密に連携して検討を進める.これらにより,自己組織化のカギとなる特徴量・特徴行動を明確にし,合目的的行動生成メカニズムの解明へ歩を進める.これらの知見を総合し,(4)として群体型水中移動体の試作を行う.現実の流体運動や群体における素子間の相互作用について,数理モデルと設計・試作結果との対応を検証し,ロボットシステムとしての実体実装に資する知見を獲得する.
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