研究課題/領域番号 |
22H01445
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
佐野 明人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80196295)
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研究分担者 |
池俣 吉人 帝京大学, 理工学部, 准教授 (70467356)
上村 知也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80881789)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 2足ロボット / 受動的力学相互作用 / 歩行・走行ロボット / ヒト歩行・走行 / ロボティクス |
研究実績の概要 |
本年度は,統合2足ロボットにおいて身体構造を歩行・走行実験を通じてほぼ確定した.まず,筋シナジーを考慮したコア筋群として,2関節筋である腓腹筋,膝伸展筋の広筋(膝蓋骨を模擬),および足部(アーチ構造の多関節)背屈筋の前脛骨筋等を選定し,強靭なバネ付ワイヤおよび空圧アクチュエータを設置した.特に,広筋に導入した予備緊張バネは,着地前の身構えとして重要でだった.また,股関節伸展筋である大殿筋は,最終的にバックドライバビリティが高いBLDCサーボモータを採用し,屈筋である腸腰筋は弾性体とした.さらに,体幹部に揺動慣性を搭載した.また,脊椎を簡略化した4段構成とし,椎間板を模したゲルによって適度な粘弾性を実現した.さらに,脊椎の前後左右4箇所に,最上段から骨盤までを貫く形で4本の引張バネ付ワイヤを配置し,バイオ・テンセグリティとして,しなりなどを許容しつつ剛性を高めた. 2足ロボットによる実験では,ヒトアシスト下ではあるが,トレッドミルおよび屋外の多様な環境で時速10km以上での走行ならびに時速3kmでの歩行を達成した.走行では,従来の浮いた走りから体重をしっかり乗せた走りへと進化させる中で脚機能強化を施し,垂直・水平床反力共にヒトに近づいた.特に,水平床反力では,制動力から推進力へと切り替わるタイミングおよび推進力の大きさがヒトと同等になった.一方,歩行では,大腿二頭筋長頭の作用が起点でリンク間の相互作用がわずかずつ変わり,他の受動要素も含めて脚全体で本来の機能が発現し,歩容全体において質的な変化が現れた.その結果,腿・関節の角度変化がヒトにかなり近づいた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,統合2足ロボットに対して,歩行および走行それぞれの性能を高めてきた.バネなどの弾性体の受動要素により緊張状態を生成し,その緊張状態下で空圧アクチュエータやモータ等の能動要素を制御して脚運動の生成を行った.特に,緊張状態の生成に関わる知見は,両者の間で共有されてロボットの機能改善が進み,洗練化・統合化が一気に進んだ.また,体幹部や腕などが揺動することが,歩行や走行において本質的に重要であることが示唆された.さらに,従来は歩容に応じて臨機応変に生成していたヒトのレバー操作による脚駆動がモータ駆動に置き換えられ,分離して考えてきた機構(身体)と制御(知)を統合することで,学習への展開を可能とした. ロボットとヒトとの対比において,腿・関節ごとに試行錯誤的にヒトに近づけるアプローチにより,様々な力学的相互作用が明らかになってきた.その上で,ヒトらしい歩行・走行への改善およびその評価を包括的に行い,期待通りの成果を上げた.たとえば,屋外走行では,並走する実験者と脚運動が完全にシンクロしていた.なお,ヒトに近い歩容を生成する力学機序を見出することを優先して実験者が適宜アシストを加えることを許容し,安定した連続歩行・走行を達成した.以上のことから,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を踏まえ,統合2足ロボットをより一層洗練化する.身体・環境に神経も加えた多様な受動的力学相互作用を通じて新たな力学機序を発見する.神経系としてCPGに着目し,着地と離床のタイミングの適正化を図る.なお,反射や適応とも関連付ける.さらに,統合2足ロボットの身体性を活かして制御する知に注目する.ロボットの持つダイナミクスと環境との相互作用には,受動的な力学機序に基づいた身体性に関する情報が含まれている.そこで,これを世界モデルによって学習することで,世界モデル内部に受動的な力学機序に内包された歩く・走るための知を取り込む.さらに,その世界モデルに基づいた深層強化学習により,身体性を活かした暗黙知と呼べる知を獲得する.
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