研究課題/領域番号 |
22H01450
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
志垣 俊介 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 助教 (50825289)
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研究分担者 |
倉林 大輔 東京工業大学, 工学院, 教授 (00334508)
櫻井 健志 東京農業大学, 農学部, 教授 (20506761)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 微小領域気流可視化 / 触角電位応答計測 / ロボット嗅覚 |
研究実績の概要 |
本研究では,化学感覚器である触角の形態的多様性が大きい昆虫を題材とし,生物の化学感覚システムの解明を目指すとともに,構造および情報処理を模倣することで人工化学センサの空間情報獲得性能の向上に挑戦する. 2023年度は,2022年度に引き続き単離した触角に対する微小領域気流可視化実験を行った.実験には歩行昆虫であるカイコガ雄成虫の触角を用いており,カイコガの触角は櫛のような側枝構造となっている.粒子を提示する際の流速を網羅的に変えて実験を行った結果,カイコガの羽ばたきによって生じる風速近傍で触角内部に渦が発生することが確認された.他の風速では生じなかったことを考慮すると身体的特徴とリンクした特異的形態を触角が有している可能性が示唆された.これと並行し,行動実験によって風速差から生まれる探索性能について調査を行った.翅を切除した個体を用いて,一定風速を生成可能な整流環境下で匂い源定位実験を行った結果,渦を巻く風速を提示した際の条件がより直線的に匂い源に到達できていることがわかった.加えて,匂い感覚から運動出力までの昆虫の情報処理システムを調査するために,実環境で実際に匂い刺激を受容したタイミングから遅れ時間を設けて昆虫に刺激を提示する介入系を構築し,行動実験を行った.その結果,匂い刺激感覚に遅れ時間を設けると匂い源への探索性能は低下するものの,依然として匂い源定位という機能を維持できることが明らかとなった.これらの成果は,査読付き論文誌2編,国際会議発表5件,ほかにおいて発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,生物規範型アプローチでのロボット嗅覚の確立を目指し,化学感覚器である触角の形態的多様性が大きい昆虫を題材に,昆虫の化学感覚システムを解明し,工学的に再構成することを目的とする. 2023年度においては,櫛のような側枝構造を持ったカイコガの触角を対象に気流可視化実験を実施した.その結果,カイコガの羽ばたきによって生じる風速時に触角内部で渦が発生することが確認された.他の風速では粒子が触角から多く抜け出すことが観察されたことから,特異的な性質がカイコガ触角にあることがわかった.これと並行し,翅を物理的に切除したカイコガを用いて行動実験を行った結果,羽ばたき時の風速に設定した際により直線的で効率よく行動していることがわかった.以上より,化学感覚器である触角には身体的特徴をうまく活用する構造が備わっていることが示唆された.加えて,匂い感覚の情報伝達の遅れが探索性能に及ぼす影響を介入系を用いて調査した.その結果,情報伝達に遅れが生じるほど探索性能が低下するものの,一定の探索性能を維持できることから,情報の齟齬があった際にも柔軟に対応できるロバスト性が昆虫に備わっていることが明らかとなった.これらの成果は査読付きの国際論文誌に採録されたことから国内外に新たな知見をもたらすことができた.以上の観点から,2023年度の進捗状況は,当初予定された計画の成果を得ることができたと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,2023年度で実施した微小領域気流可視化実験を引き続き実施するとともに,触角電位応答と共に計測することで,流体のダイナミクスと感度の関係を調査する.また,特異的な風速で渦巻くことがわかってきたため,この現象を創発できる昆虫触角模倣型の人工デバイスの開発を行い,生物実験の結果が実世界でどのように作用するかを構成論的に検証する.具体的には,昆虫触角模倣型デバイス内部に化学感覚センサを埋め込み,渦発生の有無によって化学感覚センサの感度が変化するかどうかを調査する.また,そのデバイスを自律移動体に実装することで,匂い源定位という機能に貢献するかどうかを評価する予定である.
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