研究課題/領域番号 |
22H01458
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
洞出 光洋 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), システム工学群, 准教授 (30583116)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | MEMS / マイクロマニピュレーション / 微小力センサ / 細胞挙動解析 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,圧力印可中の細胞が大きく成長している現象に着目し,細胞成長メカニズムがなぜ起こるのか,マイクロロボティクス(ハード)と顕微鏡画像解析(ソフト)を駆使し,ミクロとマクロの両方のレベルで解明することである. バイオ研究ベースでの細胞挙動解析は,遺伝子解析や細胞染色が中心であった.前者の遺伝子解析では細胞集団の解析のため,細胞個々の個性まで理解することが難しい.一方後者の細胞染色では,一旦ホルマリンを用いた固定等が必要なケースが多く,成長過程をレコードすることが難しい.これらの課題に対して細胞個々の操作を得意とするナノマイクロシステムや,マイクロロボティクスを駆使して,細胞個々の成長過程の把握に焦点を充てていく.特に再生医療等の細胞選別,人工臓器形成に有益な知見に繋がるような最適培養パラメータや,硬さ等の細胞特性の情報提示を目指したい. 具体的な研究項目として,細胞への圧力負荷方法の構築,ビジョンをベースとした画像情報による細胞挙動解析,細胞を精密に配置するためのマイクロマニピュレーション,そして微小力センサを搭載した小型ロボットアーム用エンドエフェクタによる計測が挙げられる.これらの工学分野ならではのアプローチを効率よく実施していく.特に再生医療等の細胞選別,人工臓器形成に有益な知見に繋がるような最適培養パラメータや,硬さ等の細胞特性の情報提示を目指したい. 初年度においては,周期加圧培養時のアクチン挙動の観察,加圧培養時の細胞硬さ計測の2つに取り組む.また細胞においても皮膚系のNIH/3T3細胞と,筋肉系のSMC細胞を用いて,両者の個性が現れるか検討していく.細胞への加圧方法に関しても,当初は静水圧およびマイクロマニピュレータを用いる方法を検討していたが,研究の進捗に合わせてマイクロ流体デバイスを用いた細胞のマイヤー硬さ計測にも取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては,周期加圧培養時のアクチン挙動の観察,加圧培養時の細胞硬さ計測の2つに取り組んだ. 細胞への加圧方法の構築にておいては,当初は静水圧およびマイクロマニピュレータを用いる方法を検討し進めた.静水圧環境下での加圧においては,PCから周期や最大最小圧力を容易に設定し,加圧波形も矩形波と正弦波の入力が可能なシステムの構築に成功した.さらにマイクロ流体デバイスと接続し,デバイス内での細胞トラップと加圧培養まで実施できた.一方で課題として,細胞培養に適した37℃を顕微鏡下で維持することと,最大圧力が150kPaまでしか実現できないことが現状の課題として確認された.またマイクロマニピュレータを用いる方法では,顕微鏡とマニピュレータが物理的に干渉する問題が発生した.焦点深度が深いズームレンズタイプの顕微鏡と,マニピュレータの進入角度を調整することで,直径100μmレベルの対象物への負荷印可およびその観察が可能になった. 上記の取り組みだけでなく,新たにマイクロ流体デバイスで負荷印可と硬さ計測を可能にする方法も並行して実施した.マイクロ流体デバイスには微小力センサを集積できない問題はあるが,高いスループットが魅力的なツールである.今回はナノマイクロスケールで三次元的な流路構造を集積することに成功した.この立体的な構造を利用することで,マイクロマニピュレータと同じように細胞に物理的な負荷を与えることができる.さらに画像情報から細胞面積や変形能を取得することにも成功し,当初の目的である硬さ計測に期待がもてる結果が得られた.実際にNIH/3T3細胞は負荷印可に関係なく円形度が高いこと,一方でSMCでは負荷印可時に変形能の高さから円形度が大きく低下することを定量的に確認することができた. 以上の結果から,加圧システムと画像情報から評価する手法の構築を順調に実現することができた.
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今後の研究の推進方策 |
初年度においては,加圧システムの構築や,実際に細胞培養を行うこと,さらにビジョンを用いた細胞挙動観察を行うことができた.当初予定していなかったマイクロ流体デバイスを用いたマイヤー硬さ計測が成功する一方で,想定していなかった問題も確認することができた.ただし問題に対する解決方法も検討できたため,それらも考慮しながら進めていく. まず,細胞培養に適した37℃を顕微鏡下で維持することと,最大圧力が150kPaまでしか実現できない問題に関しては,実験システムの改良で対応していく.顕微鏡に干渉しない温度維持システムを構築し,現状の実験装置に集積することで対応できると考えている.これまでの予備試験から約1時間細胞観察ができれば特徴的な細胞挙動が起こることが確認できている.そのため,大掛かりなCO2濃度維持システム等は除外して,温度のみのシステム構築で比較的容易な改良のみで十分対応できると考えている.また,最大圧力に関しては,空圧補器システムを新たに集積することで対応できることが確認できた.先行研究から効果的な培養が期待できる180kPaまで上げることは十分可能だと考えられる.細胞の種類によっては高い効果が得られる圧力値が異なるため,周期と加圧可能な最大圧力の関係にも着目し,システム改良を進めていく. マイクロ流体デバイスで物理的な負荷印可を与える方法に関しては,当初の想定以上に細胞硬さ評価に応用できそうなことが確認できた.一方で微小力センサ付きマニピュレータと異なり,印可圧力を直接計測することができない.そこで,推定圧力値を有限要素法等を採用して導出する方法を検討したい.また細胞への圧力印可は,マイクロスケールの立体的な構造だけでなく,懸濁液の流入速度との組み合わせも重要であることが確認できた.流入速度に関しても実験と解析の両面から最適化をアプローチしていく.
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