研究課題/領域番号 |
22H01470
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
滝川 浩史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90226952)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フィルタード真空アーク蒸着 / 陽極コイル / ドロップレット / 硬さ / TiN膜 / AlCrN膜 / ダイヤモンドライクカーボン / 切削工具 |
研究実績の概要 |
本年度は,陰極をTiそして導入ガスをN2としてTiN膜を形成し,その評価を進めた。特に(1)磁界構造による陰極点の安定性と運動特性の変化,(2)ドロップレット抑制の特性について調査した。 (1)については,陰極の背面に設置する背面磁石(永久磁石)およびアウターコイルが作る磁界を調整し,アーク放電が安定すると共に陰極点円運動が十分に駆動され,ドロップレットの放出量が抑制される条件を見出した。また,コイル形状の陽極(コイル陽極)にした場合とそうでない場合を比較し,コイル陽極を用いることで成膜速度が上昇することを確認した。コイル陽極により磁界が増大することで,プラズマがより効率的に輸送されたと考えられる。実際,磁気プローブにより磁界を計測したところ,コイル陽極によって磁界が増大していることが確認できた。加えて,成膜速度が上昇したことにより,膜厚あたりのドロップレット数を抑制できることを確認した。成膜したTiN膜に対してロックウェル圧痕試験を行ったところ,剥離がなく,密着性が良い膜が作成できていることがわかった。また,ナノインデンテーション試験により硬さを測定したところ,40GPa程度の硬い膜が作製されていることがわかった。ドロップレット数,膜質の観点から最適な成膜条件を見出したのち,実際に切削工具へ成膜し,成膜できることを確かめた。他にも,AlCr陰極や炭素陰極を用いた初期試験を行い,今後の指針を得た。今年度得られた知見を元に,さらなるフィルタード蒸着装置(FAD)の改良および試験を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
印加磁界による陰極点の安定性・運動特性,ドロップレット数の変化,TiN膜の膜質の変化などについて,初年度は計画通りに分析を進めることができた。陰極点の運動を制御すると共に,アーク電流を利用した輸送磁界を用いることで,ドロップレット数を抑えつつ高速にTiN膜を成膜することができ,結晶構造や硬さなどの膜質の分析を進めた。テストピースへの成膜だけではなく,工具への成膜を行うことができた。AlCr陰極や炭素陰極による初期試験も行い,順調に評価が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,改良版の陰極・陽極を用い,陰極をTiからAlCrに変え,導入ガスをN2としてAlCrN膜を形成するとともに,改良版FADの動作確認を進める。特に(1)磁界構造による陰極点の安定性と運動特性の変化,(2)ドロップレット抑制の特性,の2点について,まず調査する。(1)については,陰極の背面に設置する背面磁石に加えて,アウターコイルが作る磁界により制御する。陰極点が長時間維持される磁界配位・圧力・ガス流量等を探索するともとに,ドロップレット放出量の抑制が期待できる円運動を伴う陰極点を維持可能な条件を探索する。(2)ドロップレット抑制の特性については,陰極から基板までの各地点において,ドロップレットのサイズごとの量を評価し,ドロップレットがフィルタされていることを確かめる。AlCrNは絶縁性であるため,放電の長期維持が課題となる。長期維持性を把握し,生産性に課題を見出し場合にはその解決策を検討する。陰極点・ドロップレットについて検討をするともに,発光分光計測により,プラズマに含まれるイオン種についても,理解を深める。 以上に加えて,基板(Siウェア,超硬)に製膜されたAlCrN膜の成膜速度,表面形状(異物,平坦性),膜質(密度,硬さ,耐摩擦摩耗性:トライボ特性),電気抵抗を評価する。これら膜質特性の圧力,ガス流量,バイアス,磁界構造に対する依存性を把握する。これらを踏まえて,更なる改良版の陽極を設計・製作する。 これらに並行して,黒鉛陰極を用いた水素フリーDLC膜の場合についても,装置の機能性を評価する。
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