研究課題/領域番号 |
22H01473
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
尾崎 良太郎 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90535361)
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研究分担者 |
門脇 一則 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (60291506)
飯野 裕明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (50432000)
渡辺 豪 北里大学, 未来工学部, 教授 (80547076)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 絶縁材料 / 空間電荷 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究は、ナノコンポジット絶縁材料の特性を、近年発展が目覚ましい有機半導体の知見と技術を使って解析することが目的である。我々は、これまで、マクロスケールな電磁気学に基づく手法によってポリエチレンの特異な電気伝導特性をシミュレーションすることに成功している。これらは、ポリエチレンの特異な電気特性の要因は、移動度の負の電界依存性であることを示している。また、この計算では、負の電界依存性が存在するものとして計算しているが、2022年度からは、そのメカニズムを明らかにするため、電子ひとつひとつの輸送現象を考えたモンテカルロシミュレーションを行っている。2022度は、Miller-Abraham型のホッピングレートに基づくモンテカルロシミュレーションを開発し、フィラーが入っていないLDPEの高電界下での絶縁材料の移動度を検討した。シミュレーションは、高電界領域において移動度が下がる傾向を示したが、実験結果の方がより移動度が小さくなるため、現在の仮定しているシミュレーション条件だけでは十分ではなく、絶縁材料により適したモデルを構築する必要があった。2023年度は、我々が適用している有機半導体の手法を見直した。有機半導体では、移動度がある程度高い状況を扱うことを想定されているが、ポリエチレンは移動度が極めて低いため、その違いを反映させるモデルを構築した。従来モデルでは、エネルギー準位の高低差はあるものの、電荷はある程度自由に材料中を移動できたが、ポリエチレン中の電荷は、かなり制限された条件で輸送されると仮定したところ、実験結果に極めて近い、移動度の負の依存性を得ることができた。これは電磁気学的な古典論と、モンテカルロシミュレーションによる半古典論が繋げることに成功したことを意味している。今後はさらにこれらを発展させて、量子論を含んだ手法で解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、電磁気学に基づく古典的な手法であったが、ポリエチレンの移動度が高電界下において負の電界依存性を仮定することで、ポリエチレンの電荷輸送特性を再現することができていた。この電磁気学的な手法は、電荷の全体的な挙動を扱う手法であるため、電子ひとつひとつの振る舞いは考慮できていなかった。一般に、シミュレーションでは、空間スケールと時間スケールに応じた階層(断絶)が存在しており、それらを繋ぐことは非常に重要であるとともに、難易度の高い仕事となっている。本研究課題では、ポリエチレンの移動度が負の電界依存性を示すメカニズムを解明するために、電子ひとつひとつの輸送を考慮した空間スケールおよび時間スケールの異なるモンテカルロシミュレーションも並行して開発している。2023年度の研究において、ふたつの異なる階層のシミュレーションを繋ぐことに成功したため、研究は順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究は概ね順調に進んでいる。マクロスケールなシミュレーションでは、ポリエチレンの移動度が負の電界依存性と仮定することで、ポリエチレンの特異的な電気伝導を再現することができた。ポリエチレンの移動度が負の電場依存性となることを調べるために、ミクロスケールなモンテカルロシミュレーションを用いて、ポリエチレン中の移動度を解析した。そこでは、ポリエチレンでは、電子がホッピングできるサイトに制限があると考えることで、実験で観測された移動度を再現することができた。今後は、シミュレーションの階層をさらに一つ下げて、ポリエチレンの分子構造を考えたときに、本当に、ポリエチレン中のホッピングサイトが制限されると考えることができるかを調べる。
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