研究課題/領域番号 |
22H01478
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石山 敦士 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00130865)
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研究分担者 |
植田 浩史 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (10367039)
野口 聡 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (30314735)
福井 聡 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70293199)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電気機器工学 / 超伝導材料 / 加速器 / 量子ビーム / 癌 |
研究実績の概要 |
本研究は、基盤研究S「次世代医療用高温超伝導スケルトン・サイクロトロンの設計原理・廃初基盤の確立(18H05244)」(2018~2022年度)の最終年度前年度応募として提案した課題であり、核医学治療用のα線放出RI(放射性同位体)製造のための高温超伝導スケルトン・サイクロトロン(HTS-SC)用REBCOコイルシステムの開発を最終目標としている。そしてその実応用に向けて、「常伝導転移事故に対する確実な検出・保護が必須」と「製作コストが高額」という2つの大きな障壁を克服する技術の確立を目的に、高安定:コイル内に劣化や欠陥が発生しても継続運転が可能、無保護:継続運転が不可能な状態になっても、従来のような保護装置が不要、低コスト:劣化・欠陥のある線材の使用を許容、高性能:未踏ステージへの応用拡大が可能、を実現するためのコイル技術について研究開発を行う計画のもと、初年度(2022年度)は以下を実施した。 1.HTS-SC実証用小型REBCOマルチコイルシステムの特性評価:基盤研究Sの最終年度実施予定であった実機の1/2スケールモデルの製作・測定系の構築を終え、冷却特性、発生磁場の空間分布精度および時間安定度、電磁応力によるコイル変形の測定等を行った。 2. 本研究で掲げた「高安定」と「無保護」に関する検討:無絶縁コイル巻線技術を適用したときの電磁的・熱的挙動について評価する(無絶縁REBCOコイル特有の通電特性を解析するための計算機プログラムを新たに開発)とともに、一部のコイルが常伝導転移したときの継続運転の可能性の検証、コイル保護装置を用いない方式(無保護)の可能性の検討、さらにコイル巻線内に新たな劣化・欠陥が発生したときの検出法の確立に向けた検討等を行った。この際、形状の異なるコイルから成るHTS-SC用コイルシステムの振舞いを解析するための新たな計算機プログラムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. HTS-SC実証用小型REBCOマルチコイルシステム(実機の1/2スケールモデル)の特性評価:基盤研究Sの助成のもと2021年度末までに製作を終えていたコイルシステムに対して測定系の構築を行った後、定格運転温度である30Kになるよう温度制御を行い(コイル内の温度差は±1K以下)9月末に通電実験を開始した。年度末までに160A(定格540A)までの通電を繰り返し実施し、両端電圧、発生磁場、温度、ひずみ等の測定を行い、無絶縁REBCOコイル特有の励磁特性を観測した。実験は順調に進捗している。実験と並行して、発生磁場の空間分布精度および時間安定度に影響を与える遮蔽電流磁場(励磁時の変動磁場によってREBCOテープ内に生じる誘導電流による不整磁場)と無絶縁コイル巻線の弱点である励磁遅れ(励磁時にコイル径方向に電流が流れることによって生じる不整磁場)の影響を低減する方策を探るために、回路解析のみによる無絶縁REBCOコイルシステムの励磁特性評価用の計算機プログラムを新たに開発した(当初の計画にはなかった成果)。 2. 本研究で掲げた「高安定」と「無保護」に関する検討:形状の異なるコイルから成るHTS-SC用無絶縁REBCOコイルシステムを対象として、一部のコイルが常伝導転移(劣化)したときの電磁的・熱的挙動を解析するための計算機プログラムを新たに開発し、コイル間の磁気的な結合とそれに伴って誘導されるコイル内電流の変化等を評価した。これを試作モデルコイルの実験により検証するため、コイル試作の準備(線材購入、巻枠の製作等)を行った。また、無絶縁REBCOコイルの保護方式として、外部保護抵抗を用いない方法(無保護)の可能性を数値解析に基づき検討した。さらにコイルの健全性の監視法として、コイル両端電圧とピックアップコイルを用いる方法について、数値解析に基づき特徴と可能性を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. HTS-SC実証用小型REBCOマルチコイルシステム(実機の1/2スケールモデル)の特性評価:まず、無絶縁REBCOコイルシステム特有の遮蔽電流と励磁遅れの影響を低減する方策を探るため、通電電流波形としてOver-shoot法(目標電流より数%大きい電流を流し、その後、目標値まで減じる方法)などの効果を実験的に検証し最適化を図っていく。次に、定格電流(540A)まで徐々に最大通電電流値を上げながら、コイルの発生電圧、温度、ひずみを継続的に観測し、試作モデルコイルシステム固有の特性を明らかにするとともに、開発した解析・評価用計算機プログラムを併用しながら実規模システムの開発に向けた課題(電磁的、熱的、機械的特性に関する開発課題)とその解決法について検討していく。 2. 本研究で掲げた「高安定」・「無保護」・「低コスト」・「高性能」を実現する技術に関する検討:本研究のキーテクノロジーとした「無絶縁コイル巻線技術」と「YOROIコイル補強構造」の効果を検証するため、口径・形状の異なる無絶縁REBCOコイルを試作しこれらを組み合わせたモデルコイルシステムを用いて、熱擾乱(ヒータ使用)による常伝導転移(劣化)を模擬した評価実験を行う。この際、予め欠陥のある線材(欠陥位置を事前に調査)を用いたコイルも使用する予定である。そして、劣化発生後の継続運転、欠陥のある線材の使用(歩留まりの向上による低コスト化)、無保護(劣化発生後にコイル両端を開放)の可能性を検証する。また、HTS-SC実証用小型REBCOマルチコイルシステムの実験データとして得られるひずみ測定と構造解析(応力・ひずみ・変形)の結果から、YOROIコイル補強構造の効果と改善点について検討していく。そしてこれらの成果から「高性能」(高安定・高電流密度・高磁場・高機械強度)を実現するためのコイル化技術基盤の構築を目指す。
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