研究課題/領域番号 |
22H01501
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
石丸 伊知郎 香川大学, 創造工学部, 教授 (70325322)
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研究分担者 |
和田 健司 香川大学, 医学部, 教授 (10243049)
岡崎 慎一郎 香川大学, 創造工学部, 准教授 (30510507)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 赤外分光 / フーリエ分光法 / 中赤外光 / コンクリート塩害劣化 / ガス種別弁別 |
研究実績の概要 |
100年以上の歴史と実績を有する中赤外分光法、特に照明が不要であるパッシブ分光法を日常生活空間へ適用可能にすることにより「その場分析」と言う新たな学術分野を創出する。成分分析に適した中赤外分光法(波長10マイクロメートル=波数1,000cm-1近傍)は、試料を照明せずに物体温度から放出される放射光を分光することが可能である(パッシブ分光法)。そこで、ステルス機能を持ったマルチスリットを開発することにより、独自技術の結像型2次元フーリエ分光装置を温度依存性のない中赤外パッシブ分光イメージング装置へと発展させる。これにより、新たなインフラ管理や環境計測、ヘルスケア分野への広範囲な展開が可能になる。そこで、共役面に開口部と遮光部を理論空間解像度(≒画素ピッチ)で周期的に設けたマルチスリットを設置する事にした。これにより、隣り合う輝点間の干渉強度の打ち消し合いを防止して、計測面内でインターフェログラムを高い鮮明度で取得することに成功した。本光学系では、交換レンズにより物体像を一旦結像し、このいわゆる共役面に理論空間解像度の間隔で輝点を間引くマルチスリットを設けている。これにより輝点間の打ち消し合いを防止して、テクスチャーの無い黒体表面においても高い鮮明度のインターフェログラムを取得することに成功してパッシブ分光の可能性を示した。更に、可搬型中赤外パッシブ分光イメージング装置による有毒ガスの種類弁別可視化を実施した。これは、マイクロボロメータアレイセンサーの受光帯域(3マイクロメートル~20マイクロメートル)では、多くのガス種の吸収ピーク波長を独立して検出可能だからである。また、コンクリート塩害劣化度可視化による有用性を実証した。コンクリートが塩害劣化した際のアルミン酸三カルシウムと塩化物イオンが反応したフリーデル氏塩を、中赤外領域でフリーデル氏塩の検出可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マルチスリットは、シリコン基板をICP-RIEなどのフォトレジストのプロセスで開口部を製作して片面を金蒸着している。従来は、反射率の大きな金蒸着面をカメラ側に向けて設置していたが、反転させて反射率が相対的に小さいシリコン面をカメラ側に面してみた。この場合、シリコンの放射率は金よりも大きい事から、マルチスリットの温度から生じる放射光がカメラに入射してしまうデメリットを生じてしまう。しかし、極小温度値が低い側にシフトしたので、遮光部からのアレイセンサー放射光の反射防止が有効である事を実証できた。そこで3つの条件、①マルチスリット温度からの放射光防止、また母材のSiは赤外光を透過してしまうので②物体からの放射光の遮光、更に③カメラ温度からの放射光の遮光部からの反射防止を同時に満たさなくてはならない。①と②を同時に満たすためには、自由電子を有する例えば金を蒸着する事で反射率が大きくなるので①を、また放射率は小さくなるので②を満たすことができる。しかし、この反射率の高さが“諸刃の剣”であり、③を満たす事が出来なかったのが前述の問題であった。そこで、反射率が大きく放射率の小さな金を用いながらも、カメラ側の反射率だけを選択的に小さくできる構造的な反射防止膜のサブ波長構造(SWC:SubWave-length Structure Coating)を設ける事にした。本研究では、①②③の全ての光学(電磁波)条件を満たすマルチスリット(ステルスマルチスリット)、特に広帯域な中赤外領域での無反射性を有するSWC構造の最適化と製作方法の検討に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
ステルスマルチスリットによる中赤外パッシブ分光イメージングは、様々な用途への展開が期待されている。そこで、申請書記載のコンクリートの塩害劣化、ガス種の弁別可視化だけではなく、非侵襲血糖値センサーなどの健康医療分野への適用展開も試みる。具体的には、体温から発せられる中赤外領域の分光放射輝度から、体内の極薄グルコース濃度を検出する事である。中赤外パッシブ分光では、体内の極薄成分が深さ方向の体積効果により顕在化する事が判明している。そこで、体内の極薄濃度のグルコースから発せられた中赤外光をパッシブ分光イメージングする。これにより、タブレット型体温計の様に、額の様な体の露出部を見せるだけで、体温だけでは無く血中グルコース濃度である血糖値も計測する事が可能になる。このグルコース濃度の時間的な変化を、更に体全体でイメージング出来れば、運動量の推定へと拡張する事も可能である。これは、アスリートのトレーニング時の定量的な運動量計測手法を実現できる。更に、広帯域化により、アミロイドβの検出も期待されている。これは早期認知症における脳内部の微少アミロイドβから発せられる中赤外光を分光する事による新たな診断法の提供につながる。この様に、多様な健康医療分野への展開が期待されている事から、最終年度では味見実験を通じてターゲットを絞り込んで実証実験へとつなげていく。
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